よねっきー

悪は存在しないのよねっきーのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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尋常であれば両立しえない感情が、ひとつの物語のなかに同居している。作品としての凄まじさには驚くばかりだけど、なんだかおれは、ただ悔しい気分でいる。

車内での会話とか、タバコを分け合うシーンとかに訳もわからず涙したおれは、あの結末にやすやすと納得することができない。受け止めきれないでいる。ゆったりとした黒へのフェードアウトはさながらブラックアウトで、この前うっかり失神しちゃったときの感覚を思い出したおれは、スクリーンの前でどんな顔をすればいいか判らなかった。おれは監督とちがって、どうにも、ふたつの感情が両立できないでいる。

どうやらおれは、みんながやさしくあれること、対話ができること、分かり合えることを、信じたいらしい。誰も野生や暴力を選ばなくていいと、思いたいらしい。映画において、本当に語るに足るものってなんなのか、ぐるぐると考えている。おれは、この映画のなかに、たしかに希望と優しさを孕んだ血潮が流れているのを感じた。その感覚に一片の嘘がないことを、信じたいらしい。

やっぱり悔しい。なんであんな誠実にシーンを紡げる人が、この暴力的なラストを導き出すのか。分からなさのなかに突き飛ばされて呆然とする。すこし絶望もするのだけど、それを認めたくない。その感情の根拠もまた、不思議とこの映画のなかにある。だから、この映画を嫌いになることすら、できないでいる。ひとまず今は、映画に点数をつけることができない。
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