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悪は存在しないのodyssのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.0
【よく分からない映画】

クルマが諏訪ナンバーだし、中央道が出てくるから、舞台は長野県のどこかなんだろうな、と思いながら見ていました。後で調べたんですが、作中の「水挽町」という町名はフィクションのようで。

自然が豊かなこの土地に、キャンプ場を作るという計画が持ち込まれる。それも芸能事務所が企画していて、補助金目当てというシロモノ。
説明会では住民から色々な懸念が出る。説明会に登場した男女2人の社員も計画に疑問を抱く。だけど東京の事務所は「始めちゃったんだからやるしかない」。 

その辺はまあ、分かります。
でも、ラストを始め、どうもよく分からない映画なんですよね。

まず、主役の中年男は小学生の娘と二人暮らしなんだけど、何で稼いで暮らしているのか。「便利屋」と言ってましたけど、その内実が分からない。飲料用に湧き水を汲んで10Lくらいの容器(いくつも出てくる)に入れて運ぶ様子が描かれていましたが、あれも料金をとってやっているわけですかね? でも、あれだけじゃ暮らせないでしょう。
薪割りのシーンも出てくるけど、あれは自家用らしいし。

彼だけじゃなく、この町が全体として何を産業にしているのか。
農林業でしょうか。
しかしだとすると、シカの害が問題になりませんかね?
クマやイノシシはいないようだけど、シカだって(人間を襲うことはないけれど)言わば害獣ですよ。日本の野生動物が農業に与える被害の3分の1はシカによるものですから。林業にだって悪影響があるはず。
でもそういう話は出てこない。

それに作中言われているように、住民が暮らしているのは戦後の農地解放の中で割り当てられた土地らしいので、先祖代々ここで暮らしてきた、というわけでもない。
言うならば現在の住民だって比較的最近になってから自然を開墾して暮らしてきたわけです。

むろん、だからといって芸能事務所の杜撰な計画がいいというのではない。
問題は開発の規模とその影響をしっかりと計算して、どこまでなら許容範囲なのかを時間をかけて決めていくことでしょう。

でも、そういうふうには話が進まないんですよね。

自然賛美、という視点が、少なくとも純粋には成り立たないことは上で指摘したとおり。
その辺、ヴェネツィア映画祭の審査員は分かってなかったんじゃないかな。
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