たかっし

悪は存在しないのたかっしのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3


冒頭の森を見上げるシークエンス。
森を扱う映画(暗殺の森、ミラーズクロッシング)を愛する私にはたまらないシークエンスだ。
その森で暮らす人々にずさんなグランピングの計画が持ち込まれて、説明会が紛糾する場面までは悪と正義ははっきり分かれている。

が、グランピングを計画する芸能事務所の担当2人が再度森へ向かう高速道路の車内の人間臭いやりとりで善悪の壁が溶け出していく。
後半のこの2人と主人公巧の噛み合わない自然観のやりとりの中で、主人公の娘が失踪しそこに絡んだ驚きのラストを迎え、また最初のシークエンスの森を見上げたシークエンスの暗闇の状態で物語は終わる。

私たちは自然を愛する者を善、自然を破壊して利益を得る者を悪として捉えがちだか果たしてそうだろうか。
ラストで巧が取る行動は自然の摂理に則った彼なりの行動なのだろうがこれは人間中心の世界ではこれは酷い暴力である。
一元論ではない重曹的なしこり。このもやもやしたしこりを残すのが監督の意図であるのならかなりの確信犯であると思う。

水のせせらぎに割いるようなチェンソーと薪割りと鹿追いの銃声。
8歳なのに大人の顔立ちの巧の娘。
石橋英子(とジムオルーク)の幻想的なスコア。
だるまさんころんだの場面とこの音楽の掛け合わせの妙。
ドライブレコーダーの画像。
終盤のタルコフスキーやアンゲロプロスような幻想的な映像。
全てがこのしこりを残すための装置として機能しているように思う。

そして循環するシークエンスと、川上から川下へと言う言葉。ここで表されるしこりと不寛容は連鎖していく不穏さを感じた。
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