センター分けのましゅちゃん

アイアンクローのセンター分けのましゅちゃんのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.8
"呪われた一族“と呼ばれ、
プロレスに人生を捧げた、
フォンエリック家の記録。

タイトルやポスターからは
想像できないほどに重く、苦しい物語。
大迫力のプロレスシーンは勿論あるが、
フォーカスされるのは、
プロレスに人生を変えられてしまった
家族の葛藤、苦悩、叫びが織りなす
人間ドラマ。

プロレスラーとしてありながら、
家族として、長男としてあり続けようと
もがくケビンの姿が痛く、苦しく、
胸が張り裂けそうになる。

父に託され、やがて押しつけに近い形へと変わってゆく、プロレスラーの夢。
それはケビンの責任、強さの源、
でありながら、次第に重圧へと変わる。
それは兄弟である
デヴィッド、ケリー、マイクも同じ。
彼らがプロレスラーとして闘い続ける事は
父からの重圧に耐え続ける事であり、
やがて彼らの心を呪い、
その人生を狂わせてゆく。

一度始めた夢に囚われ、
引き返す事ができなくなった
父・フリッツもまた、
プロレスに人生を狂わされている。
プロレスを無くせば、
自分の中で何かが音を立てて崩れる。
その防衛本能による苛烈な夢は
息子たちへと押しつけられ、
親のエゴ、重圧として
家族を壊してしまう。

それぞれが持つ葛藤や苦悩が、
家族という閉鎖的な関係性の中で
絡まりあい、不協和音となる。
気づいた時にはすでに二度と解けぬほどの
ほつれとなっている。
プロレスというひとつの舞台が、
呪いとしてひとつの家族に
取り憑いてしまう。

実話ベースというのも勿論あるが、
それらを決してドラマに昇華せず
リアリズムで鋭く切り込んだ、
逃げのない脚本が良い。

ただ、ケビンの解放を描くトリガーは
この作品のテーマでもあり、
この作品で描かれた全てに対する
アンチテーゼとなっている点が
非常に魅力的でもある。

割合として多くはないが、
迫力あるプロレスシーンも魅力的。
光のない場外に突き落とされたケビンが
光輝くリングへと戻ろうと、
ロープに手をかけるシーンは
非常に美しくかっこいいため、
画の見せ方も上手い作品。

"家族"とはなんだろう。
家族の在り方として正しいのはなんだろう。
家族の在り方に正解はあるのか。
そんな問いに対する解を
何度も考える作品だった。

わずかに昨年ベスト10にも入れた
『the son』を彷彿とさせる作品だった。