烏丸メヰ

Polar Nightの烏丸メヰのレビュー・感想・評価

Polar Night(2023年製作の映画)
3.6
血液を求める妖しく美しい女性・黒川衣良と、思春期に絵画教室で彼女に心奪われた少女・結城真琴。
美大に進んだ真琴は、友人に誘われて訪れた画廊で衣良の作品を見つけ、6年ぶりに衣良との再開を果たすーー
日常の裏側に痛々しく潜むダークファンタジー。


発声が強く台詞が短く、ターン制で言葉を交わしていく会話劇の質感は、文章的な単語選び含めかなり舞台的な印象。
更に台詞だけでなく描写も必要最低限であり、登場人物達のストーリーラインには無関係な余白を見せない事から、群像劇でありながらかなり“人間み”を感じさせない(言葉も人物像も記号的であり感情移入を許されない感じがある)。
それは吸血衝動を持つ妖しく美しい衣良だけでなく、若者である真琴や友人の亜紀らほぼ全ての登場人物に共通している。彼女らからも“等身大の女子大生”の匂いを限りなく感じない。

※変な話、「食料買い出し」とかの台詞があるのに、登場人物達の食事シーンが一切描写されないのが個人的に良くも悪くも“必要最低限のシーンのみに絞られてる”という印象を更に強くした。
衣良の部屋に冷蔵庫や電子レンジがあるんだけど、河野さんの醸し出す冷たくどこか人間離れした立ち居振舞いの衣良は「普通の食べ物を美味しく食べそうにない」程見事な雰囲気だし、食事と吸血の時の表情で、喜びや味覚の違いとかから彼女の“本能”を描き出されるのが観たかったな。

更にあの医者の人物、医者というそこそこの職業に就いている身でありながら
・チンピラ二人に屈する(しかも女なら誰でもいいレベルの借金となると50、60万位のはした金に思える)
・一度保身の為にあんな行動をとりつつ、今度は保身より真琴の命を優先する良心の捉え所の無さ、医者なのに何日も仕事を抜けているっぽい
と、深堀を許されない極めて記号的な人物像で観る側を突き放してくる。

これらは能動的に“粗探し”に出ずとも、ただ受動的に観ているだけで感じられる箇所なので、恐らく意図的なものなのか、完成に際し描写を削ったのか。


更に美しくゴシカルで静謐な音楽と、構図のとにかく美しい画面が淡々と物語を冷たく暗く、感情移入の余地を与えない雰囲気で進行させる。
この“音と絵づくり”の美しさは一体何だろうか。壮大なオーケストラやカタルシス盛り上げの大音量でもなく、大自然とか美麗建築とかを捉えているわけでもない(狭苦しく雑多なアトリエや、廃墟同然の古い平屋の民家等が多い)のに、個人的にはかなり素敵だと思えた。

前述の
“舞台っぽいがゆえの記号的な人物像と台詞回し”
に加えて、執着や感情にとらわれている人物達からは「人間らしい“生”」を感じない雰囲気の中で、舞台的台詞回しも記号的な役割も完全に乗りこなして輝きを放つ、廣田朋菜さん演じるマネージメント役の女性・桐島の存在感は圧倒的に生々しく、人間的で、美しい。

絵画を通して邂逅し陥る、幾つもの衝動と倒錯と執着。
「和製吸血鬼もの」だとか「同性愛もの」だとかでは表しきる事のできない、苛烈にして、闇からは決して姿を見せない静かな“業”の人知れず重なり合う物語。

Polar Night、真昼であろうとも光の届かぬ暗闇の「極夜」。
烏丸メヰ

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