ノスタルジアとは心のうちにある
記憶は人間の小宇宙でイデア論的世界を構築し、果てに過去と現在が交差し邂逅する。
演説で人を説き伏せようとする行為もロウソクを持って温泉を渡る行為も世界を救うという大義名分こそあるが、自己満足に過ぎず偽善的であることは明白だ。
しかし例え功利主義的な考えを求められようと人間は自分のことを第一に考えるべきだ。
ラストを観る限りきっと彼は救われただろうと思う。世界を救ってはいなくとも自分を救っている。そういう自己完結を肯定してくれるこの作品はすごく優しい。
初めて観た時はすごく私的で他人に理解させる気のない抽象画のような映画だと思ったけれど「ノスタルジア」を意識しなければ観客に訴えかける部分も見えてくる。これを観て郷愁に駆られることはないけれどそれが全てな映画ではない。
なによりも映像が美しすぎる。長回しによって時の流れさえも美しく、この世で最も美しい映画だと思う。