ふじこ

ホロウのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

ホロウ(2021年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

敬虔な教徒であったローラは僅か6歳の娘を殺害されてしまい、神への信仰を失う。
娘を殺した男が一年も経たずに出所した事によって、ますます心は乱れ、犯人への復讐に傾いていく。
旧知の牧師は彼女を止めようとするものの、あなたも神も誰もわたしを助ける事は出来ない とローラは聞く耳を持たず、犯人の男に会いに行けば罵倒されて追い返される。

ある日近所の白人グループに暴言を吐かれている牧師を目撃したローラは止めに入るものの投げ飛ばされ、牧師はバットを持って戻り相手を殴り飛ばす。
感謝と戻ってきてくれて嬉しいよ と声を掛けるもののローラは 戻ってない あいつを殺してやる もう既に地獄にいる と頑なな態度は変わらなかった。
わたしの為に祈って、わたしより先に神があいつを殺すように。
あなたが神に選択肢を与えたのよ、そして彼はそれを選んだ と。

ローラは犯人の家を突き止めて 何度も何度も様子を伺い、時には割れたガラス片を握りしめ、時には家からナイフを持っては通り過ぎるのを待つけれど果たすことが出来ない。そして踞って涙を流す。

そして牧師は神に、わたしがあなたの遣いであるなら彼に復讐の裁きを。
わたしがあなたの遣いであるなら、わたしを止めて下さい と祈りを捧げ、犯人の家へ。
ドアを開けてすぐに殴られ気絶した犯人は目覚めてすぐに牧師の目的を理解したのか、さっさと終わらせよう 俺もそうして欲しい 俺に祈って貰う価値なんかない と話す。
牧師は犯人の手に軽く触れて、そのまま家を出るがドアを開けた瞬間、倒れ込む。
遂に決心を固めたローラに犯人と間違われて胸を刺され、そのまま絶命する。
激しく動揺するローラに、家から出てきた犯人は 逃げろ、今すぐ逃げるんだ、ローラ頼む と。
泣きながら去る背中に、すまない と声を掛け、倒れた牧師の側にしゃがみ込む。

家の中で一人、虚ろな表情で床を見詰めるローラ。


あぁ、息が苦しくなる一本だったな。全員不幸になってしまった。
そもそも論を持ち出せば、娘を殺した犯人が全て悪くって、彼がこんな事をしなけりゃ親子仲良く暮らしていたし牧師も死ぬ事はなかったんだけど。
犯人像がよく分からないままだったので、どうしてこんな事をしたのかは分からないながらも、刑務所の収容人数や態度から早期釈放される事になったっぽかったし、最後の態度を観るに恐らく深く悔いているものだとは思う。
でもローラにしてみたら、だからどうしたって話でしかないよね。
反省なんてしなくても良いから、とにかく死んで償えとしか思えないだろう。
犯人が死んだところで亡くなった人は戻ってこない、なんて事は分かり切っていて、そうだとしたって自分の愛する人の人生は勝手に終わらされたのに、殺した側の人生だけが続いていくなんて許せない。
ローラのそういった気持ちはとてもよく分かる気がする。

彼女も冒頭では"HART'S WASH"と書かれた洗剤のようなものを手に取って非常に危うい表情で眺めていたんだけど、犯人が収監されたままだったとしたら、彼女は自らの死を選んで娘のところに行こうとしてたんじゃないかなって。
恐らく牧師殺しは娘殺しの犯人が背負ってくれるんだと思うんだけど、そうしたら彼女は娘を失い、牧師を失い、憎むべき相手も再び手の届かない場所に行ってしまって完全に一人きりになってしまうんだよな…。
心はずっと前にもう死んでいたのかも知れないけれど、彼女を思って気にかけてくれる人が一人もいなくなってしまったまま、彼女は今度こそ死を選ぶんじゃないかなぁって気がして、胸が苦しい。

犯人と向かい合ったあの一瞬でローラは何を考えたんだろうなあ。
反省したからって許される訳じゃないし、許さなくても良いけど、殺す殺さないの前に対面する機会はなかったのかなぁ…。
まぁ、そもそも反省出来るんなら最初っからすんなって話になるんだけども。
ふじこ

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