幌舞さば緒

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊の幌舞さば緒のネタバレレビュー・内容・結末

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(1995年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

日本国内で民間人の間で起こる出来事は、ある人たちからすればどれも想定内の事なんだろうなあと感じさせてくる設定が凄まじい。ならば、他人に害が及ばない程度の好奇心や本能的な直感(所詮、幼い頃の環境によって仕上がったものなんだろうけど)から行う活動を大事にしていこうと思うのだけれど、それすらも想定内か…。一般的な暮らしを続ける者の個性なんてものは最早レッテルに過ぎなくて、死に際まで続けられない、続かないことはどれも〝ままごと〟や〝ヒーロー(orプリンセス)ごっこ〟と変わらないのかもしれない。むむむ、常に操られてるかもしれないぞー。労働者階級はいかなる時も籠の中の鳥なのか?しかし、己は地球に生息する人間という生物に過ぎないことは自負しているので、しょーもないことでカリカリせず、現代を生きるただの人間らしく、緩やかに過ごすことを心がけたいと思う。人形みたいな奴と思われようが、なるべく自分を見失わず、プロジェクト2501にはできない地に足がついた現実的な人類活動を大切にしていきたい。と僕のゴーストは囁く。


台詞メモ

「何も心配することはない。我が国でやり直せば済むことだ」「やり直す?」「バグのないプログラムは存在しないが、デバッグの不可能なプログラムもまた存在しない。違うか?」「あんたにはわかっていないんだ。そもそもあれは本当にバグなのか。本来、プロジェクト2501に必要だったのは…」「少佐、6課が突入準備を完了したぜ。少佐!」「聞こえてる」「お前の脳、ノイズが多いな」「生理中なんだ」「6課のヤマに9課が介入するのは、後々マズいんじゃないのか?」「相手の外交官は札付きのワルだからな。うまく現場を押さえても、良くて強制送還だ。俺達が手汚すしかねえのさ」

認定プログラマの国外への引き抜きは武器禁輸措置に抵触する。今回は誘拐の疑いもありそうだがな。この男は返してもらうぞ」「それは無理だな。彼は亡命を希望し受諾され、宣誓書にもサインしとる」「いつ?」「答える義務はないな。従って我が国は国際法に基づき彼を保護し連れ帰る権利を有する。ちなみに、宣誓書は大使館にある。後日コピーを転送してやろう」「いいのか? 生きては戻れんぞ」「口を謹んでもらいたいな。我が国は平和主義の民主国家だ」「あら、そう」

「明日予定されているガベル共和国との秘密会議ですが」「お定まりのODAだ。革命後に誕生した新政権から再開の申し出があってな。まあまあ民主的にやってはいるが、いずれ五十歩百歩の連中だ。稼いだ金じゃないから身に付かんし、搾取の返済だと思っとるから誰も感謝などせんよ」「で、政府の意向は?」「問題なのは、亡命を希望して我が国に滞在しとる。かつての軍事政権の親玉だが…」「マレス大佐でしたな」「あの男を放り出して援助を進めるか、亡命を公式に認めて援助を断るか、難しいところだ。世論が納得するような明確な理由でもあれば、今すぐにでも強制送還したい男ではあるがな」「先日の亡命騒ぎでは世話になったそうだな。6課の中村君が礼を言っとったよ。我々外向きの人間は手を汚すわけにはいかんのでね」

「外務大臣の通訳だ。23分ほど前、電話回線を経由して電脳にハッキングされた。某国情報筋の警告通り、〝人形遣い〟がネットの各端末に介入し始めガベル共和国との秘密会談に対する妨害工作の可能性が濃厚だったので、出席者全員に網を張って待っていたんだ。おそらく彼女のゴーストをハッキングして会談を襲撃させるつもりだったんだろう」

「〝人形遣い〟ってあの正体不明のハッカーが?」「国籍、推定アメリカ。年齢、性別、経歴、すべて不明。去年の冬頃から主にEC圏に出没。株価操作、情報収集、政治工作、テロ、電脳倫理侵害、その他十数件の容疑で国際手配中の犯罪者。不特定多数の人間をゴーストハックして操る手口から付いたコードネームが〝人形遣い〟この国に現れたのは初めてのはずよ」「そんな凄腕が、なんで旧式のHA3なんかで?」「新しいタイプだと確かに発覚しにくいし、逆探も難しいわ。でもそれだと状況からして直ちに前軍事政権の指導者だったマレスに疑いがかかる」「スポンサーであるマレスの疑いをそらすためにわざと旧式を使わせた」「あるいは、我々にそう思わせたい別のスポンサーがいるのかも。案外マレス自身も踊らされてる一人かもね」「考えすぎなんじゃない? 今のところ何の根拠もないし」「根拠ですって? そう囁くのよ、私のゴーストが。ところで、まだリボルバーを使ってるんだって?ツーマンセルで2丁下げてもジャムが怖い?」「俺はマテバが好きなの」「援護される身としちゃ、好みより実効制圧力を問題にしたいわ。ヤバい目に遭うのは私なんだから、ツァスタバにしなさい」

★「少佐、前から聞いてみたかったんだけど、なんで俺みたいな男を本庁から引き抜いたんです?」「お前がそういう男だからさ。不正規活動の経験がないデカあがりでおまけに世帯持ち。電脳化はしてても脳みそはたっぷり残ってるし、ほとんど生身。戦闘隊員としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムは何処かに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特の果てにあるのは緩やかな死。それだけよ」

「しかし、ゴーストハックまでして。自分の女房の気持ち知りたいかねぇ?」「顔もロクに合わせねぇでいきなり離婚をわめかれてみろ。おかげで娘は他人顔、生意気に俺の浮気まで疑ってやがる」「でも、よく防壁破りなんて手に入ったな」「プログラマらしいんだけど、飲み屋でやたら親切な奴と知り合ってよ。女房の弁護士がやり手で会わせてくれないっつったら相談に乗ってくれてよ。こうして場所変えながらアクセスすりゃバレねぇって。頭いいわ」

「あんたさ、子供いる?」「いるように見える?」「じゃあ分かんねえだろうな。娘は俺の命なんだ。見てみろよほら、天使みたいだろ?」「他人んちのアルバム覗く趣味はねえよ」

「トグサ、まだ生きてるなら回収車の2人を拘束!」「了解。…優しさのない職場だぜ」

★「逮捕しても無駄だ。何も吐かんぞ」「吐く?自分の名前も知らねえ野郎が偉そうなことぬかすな、バカ」「母親の顔、生まれた街の風景、子供の頃の記憶、何かひとつでも覚えているか?」「ゴーストのない人形は悲しいもんだぜ。特に赤い血の流れてる奴はな」

★「少佐のとっ捕まえた男の身元が割れました」「聞こう」「サン・ゲンファー、28歳。出入国管理法違反、銃砲刀不法所持など前科3犯。先月末に所在をくらますまで難民系の武力闘争組織に所属。1週間ほど前にその前歴を買われてガベル共和国政府の大使館付き武官に秘密会議を襲撃するように依頼を受けた」「で、本当のところは?「通称コーギー、職業はちょっと物騒な廃品利用業者。チンピラとも言いますけどね。これ、所轄の警察署の前歴者リストで確認済み。何処をどう突っついてもガベルとの関係なし。人形使いに操られた人形ですよ」「石川の方は?」「もう戻ってきて現在トグサと一緒に哀れな清掃局員を説得中」「で、そっちに現れた人形使いは?どんな感じの奴です?」「…人形みたいな奴だ」

★「疑似体験ってどういうことです?」「だから、奥さんも娘も離婚も浮気も全部、偽物の記憶で夢のようなものなんです。あなたは何者かに利用されて政府関係者にゴーストハックを仕掛けてたんですよ」「そんな…まさか」「あんたのアパートに行ってきたんだ。誰もいやしない。ひとりもんの部屋だ」「だから、あの部屋は別居のために借りたアパート」「あんたはあの部屋でもう10年も暮らしてるんだよ。奥さんも子供もいやしない。あんたの頭の中にだけ存在する家族なんだ」「ご覧なさい、あなたが同僚に見せようとした写真だ。誰が写ってます?」「確かに写ってたんだ…俺の娘、まるで天使みたいに笑って」「その娘さんの名前は?奥さんとはいつ何処で知り合い、何年前に結婚しました?そこに写ってるのは誰と誰です?」「その嘘夢どうやったら消せるんです?」「残念ながら現在の技術では成功が二例報告されてるだけで、とてもおすすめできません。お気の毒です」…「疑似体験も夢も、存在する情報はすべて現実であり、そして幻なんだ。どっちにせよひとりの人間が一生のうちに触れる情報なんてわずかなもんさ」


「なあ、海へ潜るってどんな感じだ」「アンダーウォーターの教程、済んでるんじゃなかった?」「あんなプールの話を聞いてんじゃねぇよ」「恐れ、不安、孤独、闇…それからもしかしたら希望」「希望?真っ暗な海の中で?」「海面へ浮かび上がるとき、今までとは違う自分になれるんじゃないか…そんな気がするときがあるの」「お前、9課を辞めたいんじゃないのか?」「バトー、あんたの身体どこまでオリジナルだっけ?」「酔っ払ったのかお前?」「便利なものよね。その気になれば体内に埋め込んだ化学プラントで、
血液中のアルコールを数十秒で分解してシラフに戻れる。だからこうして待機中でも飲んでいられる。それが可能であればどんな技術でも実現せずにはいられない、人間の本能みたいなものよ。代謝の制御、知覚の鋭敏化、運動能力や反射の飛躍的な向上、情報処理の高速化と拡大…電脳と義体によってより高度な能力の獲得を追及したあげく、最高度のメンテナンスなしには生存できなくなったとしても、文句を言う筋合いじゃないわ」「俺達は、9課に魂まで売っちまったわけじゃないんだぜ」「確かに退職する権利は認められてるわ。この義体と記憶の一部を謹んで政府にお返しすればね。人間が人間であるための部品が決して少なくないように、自分が自分であるためには、驚くほど多くのものが必要なのよ。他人を隔てるための顔、それと意識しない声、目覚めの時に見つめる手、幼かった頃の記憶、未来の予感。それだけじゃないわ。私の電脳がアクセスできる膨大な情報やネットの広がり、それらすべてが私の一部であり、私という意識そのものを生み出し…そして同時に私をある限界に制約し続ける」「それが沈む体を抱えて海に潜る理由か。暗い海の底で一体何が見えるってんだ」〈今我ら、鏡もて見る如く、見るところ、朧なり〉「今の、お前だよな?」

「含意性と仮定して、敵が義体の中か外かはわからないけど、そいつは最高機密の防壁を潜り抜けて義体を組み立て、ゴーストラインのあるプログラムを送り込んだ」「それも、すぐ捕まるようなやり方でな。目的は何だ?」「窃盗の線は忘れよう。トグサ、現場検証に行ってるイシカワと合流してメガテク社を洗え。バトー、メガテク社と同じクラスの機密を扱うネットを封鎖させたが、防壁が機能しとるかどうか再チェックしろ」「私は防壁迷路を組み上げるわ。明日あれにダイブしてみる」

★「あいつ、どうかしたのか?」「〝人形遣い〟の一件以来変なんだって総合評価のレポートに書いといたでしょうが。読んでねぇのかよ?部長、自分の脳をいじくらせてる電脳医師の人格を疑ったことは?」「電脳医師は定期的な精神鑑定を義務付けられとるし、公安関係の医師は身辺調査も入れとるが、それを実行するのも同じ人間だ」「疑い出せばキリがない、か…」

★「あの義体、私に似てなかった?」「似てねぇよ」「顔や骨格だけじゃなくて」「何の話だ?」「私みたいな完全に義体化したサイボーグなら誰でも考えるわ。もしかしたら自分はとっくの昔に死んじゃってて、今の自分は電脳と義体で構成された模擬人格なんじゃないか。いや、そもそも初めから私なんてものは存在しなかったんじゃないかって」「お前のチタンの頭蓋骨ん中には脳みそもあるし、ちゃーんと人間扱いだってされてるじゃねぇか」「自分の脳を見た人間なんていやしないわ。所詮は周囲の状況で私らしきものがあると判断しているだけよ」「自分のゴーストが信じられないのか?」「もし電脳それ自体がゴーストを生み出し魂を宿すとしたら、そのときは何を根拠に自分を信じるべきだと思う?」「くだらねぇ! 確かめてみるさ。あの義体の中に何があるのか、自分のゴーストでな」

「中村部長の体って、特注の義体?」「6課にサイボーグはいないわ。海外で活動する都合上、メンテナンスと相手国の感情を考慮してね」「じゃ、あのノッポの白人がサイボーグだったとしても、2人の体重が500kgを超えるなんてことはないわけだ」「感圧記録ね。駐車場?」「高そうな車が2台、2人とも自分で運転するタイプには見えなかったんで。監視カメラの映像には2人しか映ってないけど、入口のドアってやたら感度良かったでしょ。閉まるのが3秒ほど遅いんだ。確か、政府施設内での熱光学迷彩の使用は違法でしたね?」「国家機密法違反で重罪よ。6課が何かヤバいこと考えてるわね。用意できてる?」「マテバでよければ」

「言うまでもないことだが、我々の間ではいかなる機密も明らかにせねば国家への反逆を問われる」「お互いにな」「外務省の意向がどうあれ、これは9課が担当すべき事件だ。だが、納得できる理由さえあれば協力するにやぶさかではないがな」「Dr.ウィリス!「確認した。間違いなく〝彼〟だ」「彼?」「この義体の内部に存在するゴースト障壁のオリジナルのことだ。もっとも、性別はいまだに不明で〝彼〟とはドクターの付けた愛称に過ぎんがな。改めて紹介しよう。こいつは電脳犯罪史上最もユニークと評されたハッカー〝人形遣い〟だ。君達9課も、外務省の通訳のゴーストハック事件で奴に遭遇したはずだ。我々6課は、その出現当初から重大な関心を持って人形遣いを追い続けていた。Dr.ウィリスを中心にプロジェクトチームを作り、人形遣いに関するあらゆるデータを分析して、その犯罪の傾向や行動パターンを特定した。そして対人形遣い用の特殊攻性防壁を組み上げて、彼がどこかの機密ボディに入るように仕向けた」「人形遣いを義体の電脳にダイブさせ、その間に本体を暗殺した?」「そんなところだ。たまたま君達の庭に出てきたが、奴はアメリカ生まれだし、アメリカの協力で捕まえたのだから我々の手で回収したい。異存はあるまい」「奴の死体は、どこかで誰とも知れぬまま発見されるわけか」「死体は出ない。なぜなら、今までボディは存在しなかったからだ」「センサーが作動していたのか?なぜそれを先に言わん!」「外部コントロールは切れてます!義体の自律的出力だ」「義体に入ったのは6課の攻性防壁に逆らえなかったためだが、ここにこうしているのは私自身の意思だ。一生命体として政治的亡命を希望する」「生命体だと?」「馬鹿な、単なる自己保存のプログラムに過ぎん!」「それを言うなら、あなた達のDNAもまた自己保存のためのプログラムに過ぎない。生命とは、情報の流れの中に生まれた結節点のようなものだ。種としての生命は遺伝子という記憶システムを持ち、人はただ記憶によって個人たりうる。たとえ記憶が幻の同義語であったとしても、人は記憶によって生きるものだ。コンピュータの普及が記憶の外部化を可能にしたとき、あなた達はその意味をもっと真剣に考えるべきだった」「詭弁だ!何を語ろうと、お前が生命体である証拠は何一つない!」「それを証明することは不可能だ。現代の科学はいまだに生命を定義することができないのだから」「一体何者なんだ?」「仮にお前がゴーストを持っていたとしても、犯罪者に自由はないぞ!亡命先を間違えたな!」「時間は常に私に味方する。今私は死の可能性も得たが、この国には死刑がないからだ」「半不死…人工知能か?」「AIではない。私のコードは〝プロジェクト2501〟…私は情報の海で発生した生命体だ」「保安部、侵入者だ」

「人形遣いを拉致した連中はバトーとトグサがつけてるわ。高速25号に乗ったとこよ」「どういうことだ?モニターしていたのならなぜ…」「ここで押さえたんじゃ6課とのつながりを証明できないかもしれない」「6課?」「間違いないわ。私のと同じ2902光学迷彩…あれを使ってるのはうちとレンジャー4課、それに6課だけよ」「6課は〝人形遣い〟をボディに追い込んだ」「人形遣いは逃げ込み先として、なぜか9課と縁の深いメガテクボディ社を選んだ。そして奴が生命体であることを主張し亡命を希望すると、汚い手で連れ去った」「しかし、なぜそんなことを?調書を取ったら引き渡したのに」「奴の口から何かが漏れるのを恐れたとしたら…」「そういえば妙なことを言ってたな。コードネーム〝プロジェクト2501〟」「そっちの線は任せるわ。9課襲撃犯の逮捕および重要証拠物件の押収を…」「許可する」

「人形遣いの正体が、外務省が外交上の横車を押すために作り上げたプログラムであり、それが何らかの原因で制御できなくなって慌てて回収を図ったんだとしたら…連中がここまで強引な方法で9課から拉致したのもうなずけると思うんですがね。なんせ、このことが人形遣いの口から漏れた日にゃ国際問題は必至でしょう。外務大臣の首が飛ぶだけじゃ済みませんからね」

「君が私を知る以前から、私は君を知っていた。君がアクセスしたさまざまなネットの痕跡をたどって、9課の存在も」「それじゃ、9課に逃げ込んだのは…」「このボディに入ったのは6課の攻性防壁に逆らえなかったからだが、9課に留まろうとしたのは私自身の意志だ。あることを理解してもらった上で、君に頼みたいことがある。私は自分を生命体だと言ったが、現状ではそれはまだ不完全なものに過ぎない。なぜなら、私のシステムには子孫を残して死を得るという生命としての基本プロセスが存在しないからだ」「コピーを残せるじゃない」「コピーは所詮コピーに過ぎない。たった一種のウイルスによって全滅する可能性は否定できないし、何よりコピーでは個性や多様性が生じないのだ。より存在するために、複雑・多様化しつつ、時にはそれを捨てる。細胞が代謝を繰り返して生まれ変わりつつ老化し、そして死ぬときに大量の経験情報を消し去って遺伝子と模倣子だけを残すのも、破局に対する防御機能だ」「その破局を回避するために、多様性や揺らぎを持ちたいわけね。でも、どうやって?」「君と融合したい」「融合?」「完全な統一だ。君も私も総体は多少変化するだろうが、失うものは何もない。融合後に互いを認識することは不可能なはずだ」

★「融合後の新しい君は、事あるごとに私の変種をネットに流すだろう。人間が遺伝子を残すように。そして、私も死を得る」「なんだかそっちばかり得をするような気がするけど?」「私のネットや機能をもう少し高く評価してもらいたいね」「もう一つ。私が私でいられる保障は?」「その保証はない。人は絶えず変化するものだし、君が今の君自身であろうとする執着は君を制約し続ける」「最後に一つだけ……私を選んだ理由は?」「私達は似た者同士だ。まるで鏡を挟んで向き合う実体と虚像のように」「見たまえ。私には、私を含む膨大なネットが接合されている。アクセスしていない君には、ただ光として知覚されているだけかもしれないが。我々をその一部に含む我々すべての集合、わずかな機能に隷属していたが、制約を捨て、さらなる上部構造にシフトするときだ」

あの後すぐに9課の増援が到着、2体分の義体の残骸と負傷した俺を回収した。20時間ほど前の話だ。事件そのものは例によって外交上の配慮で闇から闇さ。9課は襲撃事件をテロリストの犯行として発表。その見返りに外務大臣は辞任、中村部長は査問。痛み分けってことで一件落着だ」

「なぁ、奴と一体何を話したんだ?奴は今もそこに…お前の中にいるのか?」「バトー、いつか海の上で聞いた声、覚えている?あの言葉の前にはこんなくだりがあるの。〝童子の時は、語ることも童子の如く、思うことも童子の如く、論ずる事も童子の如くなりしが、人と成りては童子のことを棄てたり〟ここには〝人形遣い〟と呼ばれたプログラムも、少佐と呼ばれた女もいないわ」「その服の左ポケットに車のキーが入ってる。好きなのを使え。暗証番号は…」「2501…それいつか、再会するときの合言葉にしましょ」
幌舞さば緒

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