幌舞さば緒

ひらいての幌舞さば緒のネタバレレビュー・内容・結末

ひらいて(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

オープニングはアイちゃんのような子でもチェックしそうな主流アイドルソングで始まり、エンディングはミユキちゃんのような子ならチェックしそうな非主流サブカルソングで終わる…そこにもパラダイムシフトの表現を感じた。カースト上位の輪の中にいるけど、学年のほぼ全員を心の中で見下しているようなアイちゃんが、タトエくんとミユキちゃんと関わり、主観的すぎだった思考を改めるきっかけを与えてもらい成長するお話。対人間、心のある相手は1人プレイのTVゲームとは訳が違う。みんなだって賢いのだら、友達や恋人との関係を個人で策略的に進めすぎると、ろくなことがない。ミユキちゃんの数々の素直な言葉によってアイちゃんは、〝意識せずに行い続けてしまったサイコパス的な行動〟に気づけたのだと思う。彼女たちの深い交友関係が始まるのはこれからだと思う。争い競い合うドングリの背比べから脱却し、共同作業開始。


台詞メモ

「好きなんだけど…付き合って。受験前だけど」「私のどこが好きになったの」「気の強いとこ」「何それ、まったく気強くないんだけど」「いや、だってお前そうじゃん」「気が強いって言葉、女にしか使わないね」「いや…お前のこと学校でよく言わない奴もいるけど俺はずっといいと思ってた」「何それ、私評判悪いの?」「嫉妬だろ」「ありがと。でも私、好きな人いるから」

「ミカ、暗いところダメなのに一人で来たの?」

「え?てかアイ、友達?」「ううん、別に」

★「あの先生、最後から2問目いつも引っかけじゃない?」「俺も思ってた」「性格捻くれてるよね」「うん…でも本当には捻くれてないみたいな感じするけどな。ごめん、もう大丈夫?」

★「アイってさ、好きな人いるの?」「え?いないけど、なんで?」「ううん、じゃあできたら教えて」「教えるに決まってるじゃん」

「こんなの全然気にしないで打てばいいじゃん。ミユキちゃんにとっては水を飲むみたいなことなんでしょ?」

★「えーでも、そんなに長いならエッチしてるよね」「え、してないよ」「何、下ネタだめ?してるでしょ?」「してないしてない」「ホントに?」「ホントだってば。もうこの話やめようよ」…(コンセントを抜いた後)「で、どこまでしてるの?」

★「ちょっと期末が落ちたんですけど、推薦は大丈夫でしょうね。文化祭実行委員も立候補してくれてクラスのこともよくやってくれてますよ」「ああ、そうですか。しっかりしてるみたいで」「一般ならもっと難関も狙えたと思うけどな」「いいんです。入ってからついていけなくても困るし」「しっかりしてるなあ」

★「私じゃダメ?私、西村くんのこと本当に好きなんだけど」「なんか嘘つかれてるんじゃないかって」「え?」「あ、ごめん」「え、ごめん。どういう意味?」「ごめん、上手く言えないんだけど。なんか嘘ついてるんじゃないかって」「私が西村くんを好きってことが?」「いや、じゃなくて。全体的に」「勇気出して言ってるのに嘘なんて酷くない?」「ごめん」「西村くんって、拒絶しないだけで凄い他人のこと嫌いだよね。他人嫌いなくせに自分の女は大事にしてるんだ。なんで西村くんがミユキを好きか分かるよ。弱くて優しくて狭い世界にいるからでしょ。一緒の世界にいるふりして見下して安心してる。そうやってずっと二人の世界に引きこもってればいいじゃん」

★「アイちゃん、見にきちゃった。凄い、なんか神様みたいに可愛いね」「これリハだよ?」「うーん、本番は人いっぱい来そうだから」「ああ、そうだね」「あの…ラインみた?」「ごめん、なんだっけ?」「よかったらまた遊べないかなって。忙しい?」「いいよ、いつ?」「いつでも」「じゃあ…今からは?」

★「私、アイちゃんと気まずくなりたくなくて…知ってるかもしれないけど私、高校入ってから全然友達できてなくて。アイちゃんと遊べて凄く楽しかったのね。だから、そういう事は忘れて友達に戻れたらなって」「忘れる?なんでミユキにそんなこと言われないといけないの?」「ごめん…」「私がどれだけ好きか知ってんの?」「え、ちょっとしたおふざけかなって」「おふざけ?え、私あんなに必死だったのに冗談だったって思われたってこと?西村くん、ミユキになんて言ったの?」「え…あ、ごめん。私、アイちゃんとキスしたことはタトエくんには話してなくて」「は?」「ごめんなさい…」「ミユキはなかったことにしたい?」「そういうわけじゃないけど、仲良くなれたのにこのまま話さなくなっちゃうのは嫌だなって」「私は最初から友達だと思ってないからね。ずっと好きだったから。でも私、女だから嫌だよね」「女だから嫌なんて思わないよ」「でもミユキは男の人しか好きになれないでしょ」「男とか女とかじゃなくて、人を好きになる気持ちはよく分かるよ」「でも生理的には無理でしょ」「分からないけど、体を触れ合わせる以外にも時間の過ごし方はあるし」「ミユキと西村くんはそうかもしれないけど、私は違うから」

★愛ちゃん、私は嫌な人間です。中学の時、帰ってきても血糖値が下がっていなくて、疲れてお腹も空いていたけれど、下げるためにお風呂に入りました。すると、母が浴室のドアを開けて「お風呂なんて入って血糖値は大丈夫なの?」と声を掛けてきました。無性に腹が立って浴室の窓を力いっぱい叩くとガラスが割れて手が血だらけになりました。母は私を病院に連れて行って、帰ってくると怒られると思ったのに父は一言も責めずガラスはもう綺麗に片付けられていました。あの時くらいから私は、自分のためじゃなく誰か大切な人のために生きたいと思うようになりました。今まであまりに自分のために生きてきた。

「これいる?私、途中で帰っちゃったし西村くんいらなければ返してくるけど」「いいの?」「木村さん一番たくさん折ってたじゃん。…じゃあもらう」「欲しいの?」「うん、記念。ありがと」

「私、ミユキとやったの。2回も。凄い喜んでたよ。聞こえた?」「聞こえた」「これも嘘だと思ってるの?」「いや、事実だと思うよ」

★「俺はお前みたいな奴が嫌いだよ。暴力的で、何でも思い通りにやってきて、自分の欲望のためなら人の気持ちなんて関係ない。なんでも奪い取っていいつもりでいる。俺がミユキを見つけた時、どんな気持ちだったか分かるか?」「知ってる。ずっと見てたから。嫌いでいいから私のものになってくれないなら嫌いでいい。もう何でもないクラスメイトじゃいられない。悟られないように探し続けてやっと見つけた仕草や、たまに交わしてもらう言葉じゃもう満足できない。私は今ですらタトエと話せて嬉しい。タトエの視界に入れて嬉しい」「離して」「嫌だ。逃がさない。私のものになって」「どうしたら木村さんの〝もの〟になれる?」「抱きしめてキスしてほしい」…「嬉しい?」「嬉しい」「嬉しいなら態度で見せろよ。貧しい笑顔だね。いつも木村さんが作ってる笑顔とは比べものにならないくらい貧しい。瞳が薄暗い。自分しか好きじゃない人間の笑顔だよ。一度くらい他人に向かって、俺に向かって微笑みかけてみろよ」

「セフレだったら…馬鹿だと思う?」「…思わないよ。ごめんね」

★「ミユキは向こうで何するの?浪人?そんなに簡単についてって向こうで新しい彼女でも作られたらどうすんの?」「私はできる仕事をする。もし、タトエくんに新しい子が見つかればそれはそれでいいの」「綺麗事だね」

★「話そう」「いいよもう、忘れて」「忘れられない。それに、アイちゃんとのこと、タトエくんにちゃんと話したい」「なんでよ。今さらいいよ。遊びだったと思って」「遊びじゃなかった」…「私、西村くんが好きだったの」「え…」「西村くんが好きだったの。ロッカーに入ってた手紙を盗んで読んでミユキと付き合ってること知った。それで近づいた。西村くんからは、私に告白されたとか聞いてないよね?酷い事してごめん。西村くんには何も言わなくていいんじゃないかな。知ったら傷つくと思うし。ミユキは凄くいい子だし、東京に行ったら友達できると思う。身体のこととか大変だと思うけど、元気でいて」「アイちゃん怖い」「そりゃそうだよね、ごめん」「そうじゃなくて、今言ったこと嘘でしょ」「え?西村くんのことが?」「そうじゃなくて、何も反省なんてしてないんでしょ」「なんでよ。してるに決まってるじゃん」「してないよ」「なんでよ」「目が…暗いままだから」

★「タトエ、お前よく受かったなあ。母親に似て地頭あんまりよくないからなあ。大変だったろ。でもな、お前は何も分かってない。逃がさないからな」

★「情けない。女2人に」「こっち向け!」

「2人はなんでそんなにバカなの?あの人から逃げるためにコツコツ勉強なんかしたって意味ないじゃん」「でも」「成功したら分かってくれるとかそういう次元じゃないでしょ」「その通りだと思う」…「タトエくん、私たち長く付き合ってきたけど…ずっと距離があったね」(この辺のシーンが絶妙にシュールで笑える)

「爪の形だけはそっくりねー。顔がなくなってもアイちゃんだって分かる」

「前に、俺がミユキを好きなのは自分と同じ世界にいるからだって言ってたね」「言ったかな…随分前にね」「あれは違う」「へえ」「やっぱり、自分と違う人間だから好きになった。でも、病気っていうミユキ自身の苦しみを一緒にいることで共有したつもりになってるんじゃないかって思う時がある。絶対に俺には分からないことなのに」「私に恋愛相談されても困るんだけど。私、タトエくんのためなら両目を針で突けるけど。その代わり私が失明したらずっと側にいてね。…どう?これでミユキより私を好きになる?ねえ」「もういいよ」「ならないでしょ。だから思い悩む必要なんてないよ」

★3月生まれは変わった人が多いと前に言っていましたね。ロックスターが27歳で死ぬからじゃなくても、みんな、自分も遅くともそれくらいまでには死ぬだろうと誰もが無意識に信じているこの教室で私は、誰よりも長く生きる気がしています。生まれた季節も、病気もずっとこの手に刻まれている皺のようなものです。触れられる嬉しさを教えてくれてありがとう。自分勝手で我慢など知らないアイちゃんがたとえ打算であっても、私の前で辛抱強く振る舞い続けたのなら、ほんのひと時でも心を開いてくれたのなら私は、その瞬間を忘れることができません」

「また一緒に寝ようね」
幌舞さば緒

幌舞さば緒