幌舞さば緒

ライトスタッフの幌舞さば緒のネタバレレビュー・内容・結末

ライトスタッフ(1983年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

この映画がSFじゃないなんてロマンでしかない。1958-1963年にかけて実施された有人宇宙飛行〝マーキュリー計画〟の実話を基にした物語と、マーキュリーセブンの面々が凄腕だと認めている空軍のチャック・イェーガーが戦闘機で音速に挑み続けるお話。笑えるしワクワクとドキドキが止まらない。


台詞メモ

★この大空には悪魔が住んでいて彼に挑む者は死ぬと言われていた。操縦桿がきかなくなり機体が激しく揺れ空中分解を起こす。悪魔が住むマッハ1の世界、すなわち時速1200キロ。大気は機体をよけられない。そこに決して人間を通さぬ悪魔の壁があった。人はそれを〝音の壁〟と呼んだ。音の壁を破るため小さな飛行機X-1が造られて男達はカリフォルニアの砂漠でそれに乗った。彼らはテスト・パイロット。名前は誰も知らない。

エドワーズ空軍基地 1953年「やったぜ、エドワーズ空軍基地だ。どこよりも速い飛行機がある。いいか、見てろよ。ここでも俺たちは昇進に次ぐ昇進だ」「俺たち?あなたでしょ」「僕らはチームだ。君と2人でピラミッドの頂点を極める」「ゴードン、スピードを落として。子供達が怖がってるわ」「トルーディ、最高のパイロットは?目の前の男だ。元気を出せ。悪いようにはしないよ」

★「この36週間で62人死んだのよ。大変な死亡率よ」「死ぬのは腕が悪い」

★「ここに来るパイロットは2種類。新鋭機に乗るトップ・エースとそれを夢見るあんた達のようなヒヨッコ」

「マッハ2は安全圏だ。悪魔の住みかはマッハ2.3辺りだよ」「マッハ2はマジック・ナンバーだ。ホームラン60本、打率4割、1マイル4分。どの数もきりがいい。どの数もきりがいい。それがマスコミの話題になる。現代はマスコミ受けが大切だよ」「マスコミ?顔の前でフラッシュをたく野郎どもか」「彼らは歴史を書く」「飛行機を飛ばすのはパイロットだ」

★「君らのロケット機は何で飛ぶか」「ここで空気力学の講義か」「金だよ。金が君らのロケット機を飛ばす。聞きたまえ。金がヒーローを作る。金のある所に技術が育ち、技術を持つ者がトップに出る」

「奴の目標はスコットだな」「違うよ、奴の狙いは空に住んでる悪魔だ」

「これからは宇宙を支配する者が世界を支配する。ローマ帝国は道路を築き世界を制覇、大英帝国は船で世界に権を誇り、我が国は航空機で国威を上げた。だが今、共産主義者が宇宙に進出。そのうち我々の頭上に核爆弾を雨のように降らす。奴らに先を越されるとは何事だ!」

「右がチトフ、左がガガーリン」「そうじゃない、反対だ」「よく似てる」「とにかくソ連が人間を上げるとしたら多分この左の男でしょう」「…チトフ」

「スペース・マン(宇宙人)?」「スペシメン(生物体)」「どういう生物体かね?」「耐久力があり、指示に従うものです。例えばジンプ」「ジンプ?ジンプとは何だ?」「チンパンジー。猿のことです」「宇宙へ行く最初のアメリカ人が猿だと?」「大統領、あなたなら誰を最初に?」「我々の考えた候補者をお見せします。これを手掛かりにお考えを」「オーケーイ」「まずサーファー。着水が巧みです。右の男を勧めます。彼ら(レーサー)はメカに強くすでにヘルメットを所有。炎に包まれることにも慣れてます。優れた平衡感覚ならこの連中(空中自転車綱渡り)が抜群です。中耳が発達してて性格も穏やか。命令にもよく従います。私の一番のお勧めはこの男(空中ブランコ)です。目を覆って芸当のできるこの鋭い感覚。宇宙船の操縦に目は不要です。先ほど砲弾の話が出ましたが男女のペア(人間大砲)はいかがでしょうか?欲求不満がありません。彼(紐なしバンジー)も有利な点を持つ候補者です。炎と高さに慣れていて着水もこの通り。今月はヒマだそうで」「いかん、テスト・パイロットを使え」「扱いにくい連中です」「テスト・パイロットだけはやめた方がいい。扱いにくい人間は厄介のもとです。失敗したらコトですぞ」「大統領、お考え直しを」「必要ない」「となると空軍基地巡りだな」「トップ・パイロットのいる基地は1か所だよ」

「前に1度行ってこりごりだ。カリフォルニアの砂漠のど真ん中、エドワーズとかいう石器時代の基地だ。イカれた飛行機野郎どもがアバラ家に住んでる。ブリキ屋根、まずい食い物…最低だ。ここが奴らのたまり場〝パンチョの乗馬クラブ〟」

★「彼らとここで会う約束だ」「〝彼ら〟って?」「世界最高のパイロットだよ。仲間意識が強い。〝ライトスタッフ(正しい資質)〟を持ってる」「正しい資質?勇気か。ヘビはいないだろうな」「勇気とかヒロイズムを超えたものだ」「彼らは何と?」「彼らは説明などしないよ」「外部の人間に?」「仲間内でもそのことは話さない。皆ここだ。トップのエースも。イエガーだよ」「知らんな」

★「ワシントンから来たのはあんた達だね」「宇宙飛行士をスカウトしてるとか」「モルモットのスカウトだな」「何か言ったかね?」「モルモットだろ」「どういう意味だ」「パイロットに用はないだろ?カプセルにはモルモットを積めばいい。ケツに針金を突っ込み心臓の鼓動を調べる。ご免だね」「俺もだ。俺たちはミサイルじゃないぜ。海に落ちてそのままお陀仏だ」「よく考えてよ。どこかのアホがカプセルを上げ、どこかのアホがそれを降ろす。パイロットにその仕事をさせるのかい?」「彼らはあんた達の焦りが気に食わないんだよ」「1人1人と話そう。イエガーやほかの連中と」「カプセルなんて人間の缶詰めだよ」「それに乾杯」「イエガーはまずい。大学を出てない。大学卒が条件だ。民間パイロットのクロスフィールドも失格だ。身内調査に時間が掛かるし人の言うことを聞かない性格(たち)だ」「つまりは最高のパイロットは要らんというのか」「そうじゃない、条件内で最高の人間が欲しい」

「言うだろ、出撃命令には絶対服従。確かにここにはロケット機のエースがウヨウヨしてる」「ホットドッグ、宇宙飛行士って一体何だ?」「星へ旅する者だ」「〝星へ旅するガス・グリソム〟悪くないな」

「海軍のパイロットなんて不安だな」「海軍では〝航空士〟と呼ぶんだよ」…「アラン・シェパードだ」「我々の計画はソ連を追い抜くためすべてに優先する。言っておくが任務には非常な危険が伴う」「ゆえに志願を断ってもそれが将来不利に働くことはない」「危険なのか?」「ベリーデンジャー」「引き受けよう」

「皆近所に住んでる連中だよ。それに海軍と海兵隊のパイロットだ」「俺たち空軍に敵うもんか」「50人以上の志願者から選ばれるのは7名。俺たち3名で残りは4名だ」

「軍人はすぐ分かる」「間違いない、海軍だ」「あいつらも水兵だぜ」「海軍はダサいな。こっちは何されても平気だ」

★「降参だスコット」「君には小手調べだろ。ジョン、今度は君が勝つ」…「いいコンビだ」

「ここの目的が分かったぞ。テストだ。誰がマーチ看護師とベッドインするか。彼女から見りゃ俺たちはハナクソだぜ」「何を言う、この俺をハナクソ扱いすんのか?彼女だって女だ。男の魅力で攻めてやる」

「ここに何を採るって?」「精液」「目的は?」「精子の運動力検査」「それは分かったけどどうやって?」「一番効果的な方法はヒワイな想像に自慰行為を加えると射精が得られます」「言うのは簡単だが、うまくいかなかったら手伝ってもらえるかな」「採集サンプルをそこへ」…「歌なんかやめろよ。…やめろよ。君だなグレン、分かってるぞ。よせよ、気が散るじゃないか」

「終わったわ。沈着で辛抱強いと言っといたわ。大ウソよ」「彼女は?」「笑ってたわ。お見通しなのよ」「モテない女は扱いにくいよ」「まったくね」

国内某所の秘密基地で56名のパイロットが宇宙への一番乗りを目指します。最新技術による検査、人間の体力の限界を試すテスト、科学者の考えうるあらゆる試練に挑戦。カプセル生活に耐える準備の一環です。彼らは未知の世界で宇宙船を操作し予知できぬ危険と戦うのです。最後に選ばれるのは誰か?祖国のために危険に立ち向かう男達。これほど徹底した訓練があったでしょうか。この競争に勝ち残った者こそ生きた伝説の人になるのです。

★首都ワシントン1959年4月9日「皆さん、長期間に渡り前例を見ない審査を重ねて我々の科学陣は来る宇宙飛行を前に優れた適正を持つ者を選出しました。謹んでご紹介します。7人のアメリカ人、7人の男性です。ヴァージル・〝ガス〟・グリソム、ゴードン・クーパー、ドナルド・スレイトン、ジョン・H・グレン、スコット・カーペンター、アラン・シェパード、ウォルター・シラー。マーキュリー計画の宇宙飛行士です」「すげえな」「笑えよ。俺たちは英雄だ」「イエガーは何と言うかな。ヒヨッコが今や有名パイロット。たかが記者会見に出席しただけだぜ」

「こういうことは家族の支持がないととうていムリです。妻は今までと変わらぬ理解を見せてます。私のやりたいことを100%支持してくれます」「大した男だぜ」「見ろよ、皆大喜びだ」「私が思うに人は生まれながらに5分の勝ち目を背負ってます。私はそう信じます。人は誰にも才能と能力があってそれを最大限に活かすのが人の務めです。才能を正しく活かせば私達より偉大な力がその先の機会を与えてくれます。ライト兄弟はノース・カロライナの丘に立ち、どちらが初乗りするかコインで決めました。それからの進歩の数々。才能を活かせる国に生まれた私は幸せ者です」「僕もグレンが言ったことに賛成です。僕らは非常に幸運だと思います。このような計画に参加できる才能に恵まれたからです。こういう重要な計画に志願することが我々に課せられた義務であり、祖国と世界に尽くすことだと思います」「空軍もやるぜ」「どう思う?」「僕も同感だ。今ここで言ってることは耳新しいことではなく繰り返し確信を持って言われるべきです」

「最も優れた者が選ばれます」

「アメリカが生んだ最高のパイロットだ。彼らの給料は年収7、8千ドルかな?」「そんなには…」「これは3年間に総額50万を彼ら7人に払う契約だ。どう思う。うちの記者が彼らを取材して記事を書き手記の形でライフに掲載する」

「明日はまた基地だ。規則で家族はオフ・リミット。たとえ来ても会えない。トレーニング、学科」「その後は…何を?」「ランニングをしてる。1日最低8キロ。ココア・ビーチという美しい海岸がある。どこまでも走れる。カーペンターと走る。彼はいい奴だ。哲学的なことをいう」「ほかは?」「僕は任務を先行させる。バカ騒ぎはしない。皆いい奴だよ。いい奴らだ。100%の力を出す連中だ。奴らは僕のことを頭が堅く、話の通じないマジメ人間だと思ってる。そう思うか?君も?僕の女房なのに?僕はカタブツか?どうだ?いえてるな。おかしな集団の中で自制心を失わない男。アメリカが宇宙へ最初の人間を上げる。僕がその男になる」

★「この計画に泥を塗るのか?」「生涯に二度とない機会だ。君らはそれを潰そうとしている」「必ず後悔することになるぞ。女遊びのことだよ。若い女の子と遊び回ってる。ズボンのチャックは締めとけ!」「出しゃばりすぎだぜ。自分のモラルの押し売りはやめてもらおう。我々は志願して毎日長時間の訓練をこなし、義務の範囲を越えて工場の親善訪問やら…」「女を部屋に連れ込む」「まともな家庭生活も奪われてる。良識の範囲内なら何をしようと個人の勝手だ」…「ライフの記者です」「科学理論の討論中です」…「グレンが正しい。国中が僕らを見てる。その立場で責任を自覚すべきだ」「自分の時間はないのか」「待て、本当の問題は女じゃない。問題はサルだ。俺たちは猿なんだよ」「的外れの議論はやめよう。最初に猿を打ち上げるって噂だ。猿が人間の仕事をする。つまり俺たちは猿と同じ仕事をするわけだ。俺たちは大学出の猿だ。そういう扱いは許せない。俺たちはパイロットだ。空を飛ぶことが仕事だ。実験の方針を変えさせ計画全体を見守る必要がある」「俺たちの団結が必要だということだ」

★「それで窓はどこに付ける?」「窓はありません」「窓がない?ハッチは?」「ハッチ?」「ハッチだよ。自分で爆破して脱出する」「誤解があるようですな。このカプセルにハッチはありません」「自動操縦装置が故障したら?」「補助装置が作動します」「それも故障したら?」「帰還できないぜ」「これが最終設計だ」「マスコミが知ったら何と言うかな」「マスコミに何の関係がある」「何がこれを上げるか知ってるか?こいつを上げるのは資金だ」「その通り。金がヒーローを作る」「あそこにいる連中はヒーローを求めてる」「そのヒーローは俺たちだ」「彼らに言わせれば僕らはこの国で最も勇敢なパイロット。僕らがパイロットとして飛べないと報道されたら…」「窓を」「…いずれ将来は窓の付いたカプセルも…」「このに脱出用ハッチを」「脱出用ハッチ?…分かった。脱出用ハッチ付きのカプセルを」「〝スペースクラフト(宇宙機)〟と呼んでもらおう。〝カプセル〟じゃない。スペースクラフトだ」「分かった。脱出用ハッチ付きのスペースクラフトを。それに乗組員が機体を制御する…」「〝宇宙飛行士(パイロット)〟だ」「分かったよ。宇宙…飛行士だ。彼らが自力で再突入を制御できるように」「結構、感謝します。では宇宙機の前に立った写真をカメラに」

「見ろよ、ハム船長だとよ。ニヤつきやがって。カプセルの中で漏らした」

「グレンの飛行がキャンセルされたとか」「ソ連に勝てたのに」「アメリカはなぜ猿を?」「ここら率直に大きく構えて認めるべきです。ソ連にしてやられたと。それを素直に認めて宇宙時代に対処すべきです」「2番乗りは?」「自由世界の一番乗りだろ?」「グレンに決まってる。いつです?」「秘密だ

★「敗北宣言はもうウンザリだ。記者のバカな質問も」「抗議してもパイロット扱いしてもらえない。何が猿だ。何よりソ連に負けたことがアタマにくる」「こっちも行こうぜ」「その意気」「こうなったらお偉いさんに掛け合おう」「俺たちはいつでも準備OKだ」

ケープ・カナベラル1961年5月5日「ガガーリン・ショックから3週間、我が国は依然失敗の連続。ロケットは爆発し科学者は非難の的です。無茶な競争を控えろという声も出ています。いまだ有人衛星を上げる時期ではないと。しかし今夜その時は来ました。宇宙飛行士が旅立つのです。生死を賭けたドラマの実況放送です。飛行士の名は最後の瞬間まで発表されません。果たして選ばれたのは誰でしょうか」

「再度遅れが出ています。発射を待つシェパードは何を考えているのでしょう」…「ゴードン、ションベンしたい」「小便は予定にない。たった15分の飛行だ」「だが何時間も待ってる」「服の中で」「危険だ。カプセル内と与圧服の中は純酸素。電気がショートして火災の原因になる。我慢させろ」「次のガソリン・スタンドで車を止めるよ。悪いがそれまで我慢してくれ」…「コーヒーは少し?主人は出掛ける前に4杯も飲んだわ」「待ち時間がつらい。事故だ」…「膀胱を楽にさせてくれ。ゴードン」「我慢できないんだよ。許可しないなら彼を外へ出す」「では服の中へ」「ホセ、おむつを漏らしてもいいぞ」「冷却ガスの放出量30から45へ」「胸部左下に変化。ショートは起こってない」「全身小便まみれだ」「中止すべきかな」「俺は平静だ。ロウソクに火をつけろよ」「聞いたか、火をつけよう」「ロウソクに火を」「秒読みの再開だ!」

「ハッチの故障だよ。カプセルは揺れてました。だが爆破ボタンには触らなかった。じっとしてたらハッチが飛んだんです」「結構です」…「さて、どう思う」「爆破式ハッチは10年前からジェット機に装備されてて熱、水、振動のテストを受けてます。30メートルの高さからコンクリートに落としても自然に爆破した例はありません」

「ホワイトハウスは?」「行かない」「大統領はおいでになるの?」「来ない」「ニューヨークのパレードは?」「ない」「故郷のパレードは?」「ない」「ジャッキーは?」

★「奴はヘマをした。明白だよ」「この際問題にはならない」「その通り、大統領はピッグズ湾事件でてんやわんやの最中。宇宙計画で人気を保ちたい。だが、ハッキリ言って猿でもできる仕事だ」「猿?猿は任務の危険を知らない。飛行士は知ってる。そこが違う。命を捨てる覚悟で任務に就く男は立派だよ。ガスはよくやった」

★「飛行機なんて大嫌い。でもあなたは会った時すでにパイロット。万一のことがあったら私と子供には2か月分の給料だけ。保険なんて考えたくない。パイロットは恐怖を忘れる訓練を受けるけど…妻の不安を取り除くためには誰も何もしない。でもいいの。力の限界に挑戦する男、私には魅力よ。分かる?でも昔話を生きがいにする男は我慢できない。過去にすがりひがみを言う男達…そうなったら私は家を出てくわ。永久に」「おれが怖いのは君だけだ」「ウソばかり。でも嬉しいわ」

「ソ連がチトフを上げた」「何時間?1日?丸1日も?」「今アメリカ上空だ。対抗措置が必要だ。アトラスにすべてを賭ける。知っての通り不運続きのロケットだ。十分な安全措置を取ってる余裕もない。危険な任務だ」「準備は100%できてる」「頼むよ」

★「テレビが彼と奥さんを取材する。テレビは重要だ。分かるだろ?頼むよ」「アニー、聞くんだ。副大統領だろうとテレビ局だろうとイヤなら断れ。君の思い通りにしろ。僕が100%君の後ろに付いてる。相手が誰だろうと足の指一本入れさすな!言ってやれ、グレン飛行士がそう言ったと。いいな?また電話する」「副大統領は宇宙計画の親玉だぞ!よく考えろ!」「行きすぎだ!」「行きすぎだ?」「イエッサー!」「責任者は俺だぞ!飛行の順番を変更するぞ!」「面白い」「変えてみろよ」「まあ落ち着け。出しゃばるな」「パイロットめ」

「こちらフレンドシップ7号。待て、何か見える。驚いたな。これは一体何だ?輝く針が空を飛んでる。今見えてるものを説明する。小さな粒子の集合体だ。発光性を帯びて輝いてる。実に美しい。光のシャワーのように押し寄せてカプセルの周囲を踊り舞ってる。生物体じゃないだろうな。バカな例えだがホタルのようだ。空軍の実験も天文学者も間違ってたのかな。聞こえるか?素晴らしいぞ」「原因はそのホタルかもしれない」「あり得ない」「聞こえるか?」「聞こえてるよ。7号、カプセル周囲の微粒子と制御エンジンの間に関係は?」「〝ノー〟だ。エンジンから出てるものではない。こうしよう、こいつらの写真を撮る。」「いい考えだ」「頭がイカれたと思ってるな。美しいぞ。夏の夜のホタルのように踊ってる」

「リドレー、ソ連は35,000メートル上昇の世界記録を」「誰も気に止めてない。今は宇宙競争で〝やっき〟だ」「こいつはソ連の記録を破る力がありそうだ」「かもな」

「越してくるあなた方に敬意を表してシャープ氏が皆さんに宅地を贈ります。家の建築は建築会社が。内装はデパートが提供します」「あんたは?」「シェパード」「俺が会いたいのはグレンだ」「あっちだ。…ルイーズ、俺は絶対月へ行く。必ず行くぞ。見てろよ」

★「この世で最高のパイロット?そうだな、教えよう。大勢知ってるよ。壁の写真で知っている。壁の写真だ。むかし、知ってたある場所にあった。その場所はもうない。ここにも何人かいる。また何人かはこの国のどこかで今日も空を駆ける。マシーンに乗り込み命を賭けて危険に挑戦し、マシーンの限界を試している。だが本当に最高だと思った男が1人いる。彼こそライトスタッフ(正しい資質)を…」「もう駄目だと思ったことは?」「最高のパイロット?目の前にいるよ」

「人類の歴史で最も偉大なパイロット達の栄誉をたたえてこれを贈ります。ご紹介します。ミス・サリー・ランド!」

「もう一息だ。頑張れ。まだ行けるぞ。もう一息で43,000メートル…ちくしょう」

★マーキュリー計画は完了。4年後、ガス・グリソム飛行士はアポロ宇宙船の火災事故に遭遇して死亡。しかし、1963年5月のあの輝ける日、ゴードン・クーパーはただ一人、どこまでも大空を駆け昇って地球を22周単独飛行をした最後のアメリカ人となった。つかの間の一瞬、彼は文字通り世界最高のパイロットだった。
幌舞さば緒

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