むさじー

にごりえのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

にごりえ(1953年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<人生に行き詰った女の悲哀>

70年前の映画なので映像、音質ともに十分ではないが、美術セットや照明に気を配った夜の街の映像が素晴らしく、想像していた“古さ”よりも、明治時代の情緒とか、あの時代を生きた人たちの息遣いが聞こえてくるような新鮮な驚きがあった。三話のオムニバス形式で、当時の庶民の貧しい暮らし、根深い男尊女卑の時代にあって女性が味わった忍耐や苦悩が切なく描かれる。
第一話は、嫁ぎ先で苦労する女が実家で嘆いた帰り道、偶然に落ちぶれた初恋の男に再会して、淡い思い出に浸ると共に、男を励ますことで女自身も元気を取り戻す話。失意の女の心の移ろいが不思議な余韻を残している。
第二話は、世話になった叔父夫婦から借金を乞われた奉公人が、出来心から奉公先の金に手をつけてしまい、罪悪感と葛藤に追い込まれるが、居合わせた放蕩息子の悪行に救われる話。この結末も、気のいい娘の善意が報われたと見るか、放蕩息子の粋な計らいと見るかは微妙なところ。
第三話は、かつて思いを寄せた男が落ちぶれて別れを決意した小料理屋の酌婦が、未練が断ち切れず思い悩む。相手の妻子持ちの男とて同じで、妻と離縁した上で無理心中という凶行に及ぶ。女には抵抗の跡が見られたことから、その思いがいかばかりだったかは分からない。
物語は徐々に大きくなって悲惨の度を増し、全体が“序・転・結”の一本の物語であるかのように展開する。そして、話の結末はいずれも曖昧だが、それが深みや余韻になっているように思えた。
むさじー

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