月うさぎ

2001年宇宙の旅の月うさぎのレビュー・感想・評価

2001年宇宙の旅(1968年製作の映画)
4.4
映画映画史に名を残す不朽の名作の1つ。
後続のSF映画全てに影響を与えており、時代的に評価するなら☆5でしょう。
でも意味不明なことは確かです。
美しいだけじゃないし、スリリングなだけでもない。謎ばかりが残る。

そう思ったら、アーサー・C・クラークの小説版の「2001年宇宙の旅」を読んでみるといいです。
ヒトザルが人類に進化し得た理由、モノリスの役目、宇宙の旅の真の目的、エンディングのスターチャールドの存在理由と人類の未来全部説明されているからです。
そして、小説と映画の最終的なテーマの断絶もきっと感じると思います。
映画の巨匠とSF小説の巨匠の思想や意向の断絶を。

映画の精神的テーマはニーチェの超人思想だと言われています。
これを私はクラークによるものだと思っていました。
キューブリックは「地球外知的生命体とのコンタクト」が描きたいのだろうと…。
でも、むしろニーチェを意識したのはキューブリックの方なんではないかと感じました。
R.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」をメインテーマに選んだのはキューブリックですから。
(Y.シュトラウスの「美しく青きドナウ」はなんだったんだろう?「青」のイメージ?シュトラウス繋がり。なわけはないですよね。)(笑)
今回「音楽の取り上げ方」の相違も感じました。
クラークはモーツァルト的なバッハを最終的な音楽に選んでいます。

クラークは無宗教的次元からこの作品を描いています。
輪廻をイメージさせるラストシーンはヒンドゥーや仏教に近く、ニーチェは「神は死んだ」と言いながらも、キリスト教を放棄しているわけではないと思われます。

ディテールやエピソードの違いからは映画ならではのアレンジの妙に感心させられたり。

感心できない点も当然あります。
技術的な限界から土星を木星に変更した点、スターゲートをジェットコースターみたいに表現しちゃった点は最も残念でした。
違和感ありまくりだったロココ調の白い部屋もキューブリックのセンスでした。
キューブリックのファションセンスがいい。という意見も見かけますが、私にはそうは思えません。
宇宙シャトルのスチュワーデスの服装(特に帽子)とかありえないほどダサイです。
HALが読唇術を会得しているというのにも疑問を感じましたが(そんなことをプログラミングする必要がありますか?)
もちろん小説にはその設定はありませんでした。
謀反などではなく、もっと合理的な主観によりHALは行動しています。

ストーリーは共通です。
「智彗」を授けられたヒトザルが築き上げた「文明」は殺戮と宇宙汚染しか成し得なかった。
人類の英知の蓄積、文化のみを残して、さらなる高次元の生命体への進化が起こる。
それがこの「2001年宇宙の旅のストーリー」です。

小説と映画を交互にみて、ようやく自分的に腑に落ちた気がしています。

とはいっても映画が映画として愛されているのは、そのテーマだけではない。
観る者に異空間を感じさせ、心を巻き込んでハラハラさせるところなんですよね

それにしても、映画も小説もすばらしいという稀有な作品でした。
両方知れば2倍楽しめますよ(^_-)-☆
月うさぎ

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