マカ坊

FAKEのマカ坊のレビュー・感想・評価

FAKE(2016年製作の映画)
4.3
CDショップでクラシック担当をしていた頃、ちょうど交響曲第1番HIROSHIMAが発売され、その売れ行きに何事かと大変驚いたのを覚えている。

その時はまさか佐村河内守という人物がこれほど世間を騒がせることになるとは夢にも思わなかったが、更にそこからこんなにもよくできたドキュメンタリー映画が作られるとは…

これはもう観てもらうしかないので内容に関してはあまり言うことはないが、「佐村河内?あのペテン師やろ?それのドキュメンタリーってなに?ギャグ?」と言うような人であればある程より楽しめる作品だということは確か。

なによりこの作品に関して「結局耳聞こえんの?」とか「作曲出来るんか出来へんのかどっち?」といった批判や感想をあーだこーだ述べること自体がこの映画の「ドキュメンタリー映画としての強度」を補完する事にしかならず、結果として森達也監督の手の上で踊らされている自分のちっぽけさに羞恥を覚える事になるだけなので、2015年に発行された文芸誌「新潮 1320号」に掲載された、作家の円城塔がトマス・ピンチョンの「重力の虹」新訳版発売に際して寄せた文章からの引用を持って自戒の念としたい。

「(重力の虹のような)スケールの書物の前でさえ、我々は立ち尽くし、陰謀を疑い、書かれてもいない筋を読み取り、自分勝手な主張を重ね、独りよがりな読みを押しつけ、あいつはわかっていないと言い出し、俺にはこれだけわかったと言い、まるで歴史を手に入れたかのように、歴史を語ることができるかのように振る舞い、人としての限界を露呈していく。」

いやほんま意地悪すぎるやろこの映画。
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