Laura

還って来た男のLauraのレビュー・感想・評価

還って来た男(1944年製作の映画)
3.5
川島雄三監督、織田作之助脚本の戦中ドラマ。南方の戦線から帰還した軍医(佐野周二)を主役に、田中絹代演じる小学校の先生、レコード屋の父子と、川島得意の三つ巴の群像劇形式はこの頃からすでに闊達。「人間は身体を責めて働かなくてはいかん」というセリフや町中のマラソン大会の情景は、同じく織田作原作の戦後作品『わが町』で繰り返される。『わが町』は戦後すぐに亡くなった織田作への優れたオマージュなのだ。それにしても本作、主人公がのんびり奈良の東大寺を見物したり西洋製クラシックのレコード店が出てきたり、軍国主義的な色合いはたしかに希薄。太平洋戦争真っ只中の昭和19年、多くの作家たちが検閲の果て筆を折らざるを得なかった時代に、生粋の戯作者川島が精神の自由をどう保ったのかがみえてくる。
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