Laura

悪は存在しないのLauraのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.5
どのように受け止めたらよいのか戸惑う。優等生的だからと言って、型にはまっているというのとも違うし。なんだろう。
敢えて嫌な言い方をしてしまうと、自然と人間という対立項はヨーロッパのリベラル層が好むテーマなので、ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞の栄冠は頷ける。だがそもそも優等生の謂れとは意識せずして評価者側の求めに応じた振る舞いができる人のことなので、もちろん濱口当人も狙っているわけではないのだろうし、そんなこと言われても知らんってところだろう。

ゴダール風のオープニングのタイトルカットに導かれ、森の中の木立を見上げた長回しが続く。少女が映り、冒頭のかなり長いその映像が子供の目線であったことがわかる。
水のメタファー「水は高いところから低いところへ流れる」が小さな物語を大きな物語へと巧みに接続する。グランピング場建設に関する住民説明会の一幕だったり、鼻持ちならないコンサルとのオンラインMTGだったり、都会から田舎へ向かう男女の自動車の中の会話シーンだったり、会話劇で現実と地続きの感じを演出するのが上手い。一瞬、いま何を見ているんだっけという感覚にすら捉われる。

主人公(と言ってよいのか)の男はイーストウッド的な、開発者側と住民側どちらにも属さないいわゆる流れ者的なキャラクター造形にも見えるのだが、物語の着地点はそのような期待におさまらない。生命が生まれて土に還る、その壮大な自然の循環の中で人間の善悪を問うことがそもそも無意味なのだ。
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