8Niagara8

女の座の8Niagara8のネタバレレビュー・内容・結末

女の座(1962年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

恐るべき完成度じゃないだろうか。
成瀬作品の味はしっかりしながら、とっ散らかりかねないのを完璧に近い形で纏め上げる離れ業だと。

これほどの役者を使い、いわば『流れる』に似た外観ではあるが、寧ろこちらの方が数は多いし、それでいながら見事なバランスで皆が適度に存在感を出す。
個人的には小林桂樹の良さをしみじみと感じる作品であった。

遠くなりつつもある戦争の影と近づくオリンピックの足音。
この戦後において極めて重大な転換期に当たる時期の一家族の苦しみ。
芳子は長兄の未亡人であり、大家族の中で相当な苦労が掛かる立場。
ましてや女ばかり、財産のこともあるという調子でしがらみにありながら、彼女は自らのやるべきことをこなさんとする慎しさ。
逞しくも、弱さも抱える。そのバランス感覚は流石の高峰秀子。

父の具合も回復して、これでなんとか調子が整っていたにも関わらず、世の中良いか悪いか上手くできたもので、後妻の息子が登場。これが諸悪の根源となるわけである。
ほんとに三益愛子やってくれたなというような感じだ。
六角谷、この男が文字通り如才なく、キザなもんで、よりによって独身貴族的な強い梅子が惚れてしまうわけで、これも脚本の妙だろうか。ここでの転調が家族の運命を揺るがし、皮肉にもそれぞれの生々しさも暴くものになる。
芳子に降りかかる最悪の悲劇はあまりにも残酷でやるせなさでは言い尽くせぬものがある。葬儀やその後のシーンでの家族銘々の言動は最早悍ましい。これが人間なのかとも、日本的な家の闇を湛えている。
最後は笠智衆だからこそ発する言葉の説得力であったし、ある種戦後日本の精神性を否応が無しに背負っているとも改めて思ったり。
8Niagara8

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