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宮澤賢治 -その愛-のotomisanのレビュー・感想・評価

宮澤賢治 -その愛-(1996年製作の映画)
3.7
 賢治の後ろめたそうな感じが一家を不幸に引き摺りこむようで息苦しい。実際、賢治はあの通り親不孝を自らに課すように不摂生に励んで死に急いでしまう。
 考えるまでもない、賢治は必要もないのに劣悪な生活環境に身を投じ、粗食と労働、結核に罹ってしまうような弱い体質には過重な労働とを引き受けて、実家の小作を担っている農民の労苦を追体験するようにして、さらには女色まで断って清貧を貫いてしまうが、それらはみな、何らかの願掛けと念じての行の一種だったのか?

 いっぽう著作家であるにもかかわらず、そのような荒行ばかり紹介され、個々の作品の執筆を巡る話はほぼ出てこない。
 子どもの時分に聞かされたのは、賢治が死を間近にしての言葉として、あれら書き物は自分の気の迷いのあらわれだから、この先どのようにされても構わない、との事である。以来そんな執着の無さの不思議ばかり気になっていたが、賢治のこうした著作であれ、法華経伝道だの農業指導であれ何一つ思うに任せない事に生きることの甲斐の無さばかり突き付けられ続けて傍目にはいやな生涯と映る。
 それを救ってくれるように、果せるかなやって来た結核が殺してくれる。豊作の年の秋祭りのあとである。自分の指導が奏功しての豊作ではあるまいが、この明るい喜びにあふれた年が来年、再来年も巡って来ますようにと念じ、我が身が稗貫の人柱になればと願ったかもしれない。
 いやな歩みの末、やっと裕福な家庭に生れ付いた事のこころの重荷を下ろせと命じられるのを悔しくも安堵したのではないか。
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