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サラリーマン目白三平 亭主のためいきの巻のotomisanのレビュー・感想・評価

3.9
 気に入らぬ風もあろうに柳智衆

 細君はとみに口うるさくなったし、長男は父親の敗因分析で理屈づいて取っつきにくい、それを見てると次男の子ども子どもしてるのもいつまでの事やら。
 それもこれも、うだつの上がらない自分のせいといえばそうか。だが、国鉄の厚生部門で社内誌の編集をやっていて出世なんかするわけがないし。

 悪徳の勧めなんかを同僚はへらへらと言うのだが、なるほど、人より半歩違って五歩遅れる笠とうさんだから、手を出すのは無理としても悪徳気分の「秘め事」ぐらいは担保できはしないか?
 忘れたくらいに遠縁な姪に不意に頼られて1m未満の接近遭遇で目撃者、喫茶店の娘は笠とうさんの懸想を見抜いてしまうという色に出にけりとは立派に悪徳じゃないか?

 と、問うのもばかばかしい限りなんだが、こんな悪徳もどきが背景にあると細君とのピリピリ状態もスリルっぽさを帯びようというもので、ならばドンと破局の惨劇かというと、結局あの次男が妙な具合にこころを融かし去ってくれる。
 押し売りにもなれそうにない卜全じいちゃんにお便りばかりな柿生のご老女と、あの坊主は誰の何を見てああ育ったのか。ネタバレしてもこれではわけが分かるまいから是非ごらんなさい。

 ただ、まったく次男のそれある通りであって、夫婦で老女よりの養老園育ちの落花生を一殻一殻並べてゆくのがなんだか児童文学の名作のようである。ああなると多言は無用。しかし、いつかあの秘め事を打ち明けるときがあるかとの心残りが湧かないでもない。
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