犬のかたち

マリリンとアインシュタインの犬のかたちのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

恥ずかしながらマリリン・モンローとアインシュタインどちらの人物の背景も詳しくは知らないのであくまで映画のキャラクターと割り切って見た。

マリリンやディマジオ達の幼少期の回想シーンが流れる時に、それぞれがやむを得ず今の生き方になったきっかけとなる環境の歪みみたいなのが描かれていて見ていて辛かった。
マリリンは幼い頃から同性との関係が上手くいかず、己を求めてくれる異性にアピールして生きることを覚えたり、ディマジオは欲しいものは力づくで手に入れる他ないと厳しい野球の練習で感じたり、マッカーシーは周りに嘲笑されようとも正しく真面目に過ごして良い子だと言われる道を選んだり…
結局彼ら3人は大人になってその生き方に不満を覚えるようになる。
マリリンは男性が自分を求めるのはマリリン自身ではなくあくまで性欲の対象としての"女優"マリリンだと気づき孤独に溺れ自暴自棄になる。
ディマジオは野球選手としての成功も美しい妻をも力づくで手に入れても自身が理知的では無いことや妻マリリンとの不和からなる劣等感や焦燥感に溺れ横暴さを増し野球カードという物質的な過去の栄光の証に執着する。
マッカーシーは正しさを貫こうと極右政党に傾倒しているうちに欲に溺れすっかり良い子である自分を見失う。
こんな感じで3人は己の生き様に真っ直ぐ大人として生きようとしているのにも関わらずどこまでも満たされない欲に溺れた子供のようだった。
特にマリリンの自由奔放さったらほんとに幼い少女の様。(それに孤独が重なってしまってたから見てて痛々しかったけど)
その3人に対してアインシュタインはずーっとアインシュタインだった。
ずっと大人でも子供でもない不思議な人。
けれど自分自身を見失うことは無いのは常に真理を知りたいという強い探究心があったからなのかなあ、と。
3人とアインシュタインの対比が面白かった。
特に少女のように時折あどけないマリリンと無垢なアインシュタインの組み合わせ、良かった。

話が進むにつれアインシュタインも真理を知りたいという欲求の先の葛藤や後悔に戦争というものを通してぶつかる描写が描かれていて、自分の思い通りに全てが上手くいくなんてことまず無いのだから、欲を満たすことと妥協することのバランスはどんなスケールのことでも考えるべきだなと思った。

アインシュタインが残したとされる
「第三次世界大戦でどのような兵器が使われるかは分かりませんが、第四次世界大戦はこん棒と石で戦われるでしょう」
の言葉の意味がこの映画を今見たからこそさらに重く感じられた。
近々公開されるオッペンハイマーもこれを機に見てみようかなと思う。

まあこれはフィクションだから実存したマリリン達はどんな人となりだったかは分からないけど。