犬のかたち

TATTOO「刺青」ありの犬のかたちのレビュー・感想・評価

TATTOO「刺青」あり(1982年製作の映画)
4.5
苦しい〜

刺青に始まり交際している女性を虐げたり弱みを握る人間に対して大声を張り上げたり…
見た目など目に見える強さだけを振りかざしていた彼はどこまでも淋しい人間。

唯一の味方である母からの愛と信頼と少しの期待、愛している女性三千代に逃げられたこと、三千代の新たな交際相手から投げかけられた言葉、ひとつひとつが彼の呪いとなってしまったのかなと思うとやり切れない。

青年時代の生い立ちも相まって人より孤独を感じる性のように感じたし、だからこそ愛した女性に逃げられたショックは相当大きかったと思う。

三千代から投げかけられた言葉も後日新聞で見た三千代の新しい交際相手の名前も彼にとってははっきりと「男として劣っている」「負けている」と告げられたも同然だったろう。
その悔しさや矜恃を踏みにじられたと感じる怒りで視野も狭くなって自分も三千代の新しい交際相手と同じ犯罪というカテゴリで大きなことを成し遂げてやろう。となったのかな。
一見30までに何かを成し遂げるという自分の芯が通っていた結果のように感じるけど、結局は1人の女に流されてしまった結果のようにも思えて。

一度手にしてしまったものを逃してしまった悔しさ、そして嫉妬の中に入り交じった微かな羨望、それらがぐちゃぐちゃ彼の中で渦を巻いての犯行だと考えるとやるせない。

お金もちゃんと返すし店長の役職も果たせるような人柄だし読書家できっと新しい知識を得ることも好む人だったろうから変にどデカいことしようとせずにいれば違う道での成功を掴めたかもしれないのにな〜と思う。

何者かになりたい、何かを成し遂げなくてはという焦燥感や強い思いを抱いても、ひとつの過去や人間との関係に囚われすぎることはない。
そういった過去に固執するのをやめて色々な人と関わっていくうちに何か見えるものもあるんじゃないかと思えた。
自分の中にある固定概念や執着しているものを捨てたときに成長出来る(と信じて)
それがちょ〜〜難しいんだけど。
自戒を込めて。

実在した事件を元にした作品だと知りまた苦しい。