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浮草のBOBのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
4.0
小津安二郎監督が『浮草物語』をセルフリメイクした、生涯唯一の大映映画。

志摩半島の小さな漁村を訪れた旅回りの大衆演劇一座が織りなす人間模様。

👒👘🍶

"紀子三部作"以来、久しぶりの小津映画。

美しく、切なく、温かい昭和の名作。駒十郎(中村鴈治郎)の昭和のおやじ描写を筆頭に胸が苦しくなるシーンもあるのだが、昭和のひと夏にタイムスリップしたかのような貴重な映画体験が得られた。

疑似家族的な旅回り一座の日常風景と、昭和の男を中心とする本当の"家族"のドラマ。親世代の痴話話と、子世代の恋物語。

お茶の間にこっそりお邪魔しているかのような固定ローアングル、小気味良いカット割り、粋な台詞回しに、絶妙な間。小津調の会話シーンはやはり心地良い。

中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、杉村春子など、役者たちが素晴らしい。どの登場人物にも日本人らしい繊細な心が通っていて、何度も心揺さぶられた。時代が変わり、人々の価値観や生活スタイルは変われども、日本人の根っこにある心みたいなものは普遍的なのではないかと思わせる。日本映画でしか味わえない、すっと心に染み入ってくる何かが確実にある。

中村鴈治郎。『炎上』や『鍵』でも思ったことだが、女好きの亭主関白という"昭和のおやじ"役がとてもハマっている。もちろん独善的で暴力的なところは酷いと思ったが、座長としての責任感や親分感、息子に対する父親心など、彼が慕われる男であることも十分理解できた。人間味溢れる興味深いキャラクターだった。

京マチ子。約3分間にも及ぶ、中村鴈治郎との雨中の罵り合いシーンが最も印象深い。二人の名演技には圧倒されたし、土砂降りの狭い通りを挟んだ軒下で向き合う二人を屋内から捉えたショットもあまりに美しい。日本映画史に残る名シーンなのも納得。脱帽した。他にも、過去の女を詮索するシークエンスや、親方に寄り添うラストシーンなど、繊細で奥深い演技に惹きつけられた。

若尾文子。匂い立つような美しさと艶やかさが抜群で、完全に惚れてしまった。色っぽい声や大胆なキスシーンにもドキッとさせられた。まだ、鑑賞作品は少ないので、彼女の出演作品を追っていくのがとても楽しみだ。本作とは関係ないが、彼女の夫、黒川紀章は国立新美術館や豊田スタジアムを手掛けたのも日本を代表する建築家らしい。

笠智衆。出演シーンは少なかったが、やはり小津作品には欠かせない存在。個人的に、古き良き日本のお父さんのような存在だと思っている。優しく大らかで親しみやすくて、顔を見るだけで何だかホッとする。

📝アグファカラー
小津監督が好んだドイツ製フィルム。赤色の再現性が高い。

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