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時計じかけのオレンジのもぎのレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
3.4
この映画はパンク、ネオモッズ、スキンヘッズなどのサブカルチャーや不良文化に影響を与えた映画として知られる。主演は、マルコム・マクダウェルではなくミック・ジャガーがやる予定もあったらしいし、ピストルズのポール・クックは「本は読まないけど時計仕掛けのオレンジだけは好き」と言ったらしい。

しかし、どう影響を与え、当時の若者たちはどのようにこの映画を見たのかよく分からない。
単純にアレックスたちのファッション性や、クラシックを最低な暴力と組み合わせると言った演出、という面なら評価と影響の想像は容易だ。

しかし、思想的な面においてはどうだったんだろうか。
普通に現代人がこの映画を見たら、人間が潜在的に暴力性を持つことは認めざるを得ないが、それが他者に向かった場合は社会的制裁を加えられる。しかし、もちろん非道な暴力が肯定されるわけではないが、「市民の安全」の錦の御旗の下で進む、国家による管理社会化が帰結するのは地獄の全体主義だ、、、概ねそんな感じのメッセージを受け取るような気がする。

という受け取り方は、結構リベラルというか、現実主義というか、70年代時点でのパンクやスキンヘッズの大人に中指立てる系のノリとは結構異なるような気がする。「さらば青春の光」のような抽象性はなく、かなりメッセージ、風刺対象が明確なので、さほどラディカルなアンチエスタブリッシュメントカルチャーに直結しそうな作品という印象を受けないんだよな。

それとも、もっと雰囲気映画的な消費のされ方をしていたのか、社会風刺作品として受け止めなかった層も多かったのか。よく分からない。

そんな中、原作者アンソニー・バージェスの話を今日知ったので、ここにメモしておく。
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バージェスは、妻が駐留米軍の脱走少年兵にレイプされた過去をもつ。そう、作中でアレックスに復讐する老人作家が彼だ。

1959年。余命幾ばくもないバージェスは、家族に生活費を残すためロンドンで増加する不良少年と自身の経験を結びつけた本作を執筆した。
62年に出版された本作は、8ヶ国語を操るバージェスの語学力を活かしたナッドサット(架空の若者言葉)などが話題を呼び、アメリカではアンディウォーホルが勝手に短編映画化するほどの反響を呼ぶ。

その前書きにはこう記されている。「街角でチンピラが暴れている社会の方が、政府が自由を統制する社会よりよっぽどマシだ」
そんなスウコウな理想をもつバージェスも、過去にアレックスのような若者から悲惨な思いをさせられた卑近な人間でもある。

本作で「ルドヴィゴ療法」を知っていたためアレックスに同情を示していた老作家は、自身と妻を襲った犯人が彼だと知ってからは凄惨な復讐でアレックスを自殺に追い込む。思想的には自由を擁護しながら、個人的には小説執筆という方法でレイプ犯に復讐する様はまさにバージェスというわけだ。

そしてバージェスの本名は、「アレクサンダーバージェス」。映画内の新聞記事にあったアレックスと同名だ。全ての人には、ーバージェスのようなインテリにさえーアレックスのような衝動が潜んでいることを示している。老作家が復讐を楽しむ時の顔がアレックスのような顔だったように。
(町山さんの本の一部を要約)
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この映画がバイブルだった70年代のカルチャー系不良たちは、自身の最大の葛藤だった善悪の二面性を上手く表現してくれた。。。なんて思ってたんだろうか❓
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