もぎ

イニシェリン島の精霊のもぎのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.8
めちゃくちゃ面白い映画だったが、好みが分かれそうではある。

しかし、人間関係にある程度重きを置く生き方をする人なら全員見てほしい作品だった。なお、全く難解な映画ではない。

多くの解説では内戦などがテーマだと言うが、個人的には「現代で加速する人間関係の軋轢の原型」を描いた作品として楽しめた。舞台となるのは1923年のアイルランドの田舎の島。主人公のパードリックは現代で言うと「善人だが、SNSの投稿がつまらなく、距離感の変なリプライ飛ばしそうな奴」。

そんなパードリックと狭いコミュニティで一緒のコルムは、今でいうと「頭が良くモノを考える文化的な人間だが、他人と向き合うことをサボる幼稚で困った人」。自意識があるので、Bioが短いタイプだ。コルムは、長年親友だったパードリックの退屈さに耐えられず絶縁を言い渡し、揉めるだけの映画が本作。

こういう二人の衝突に近いものって、普遍的だが、SNSの普及以降、確実に増えた軋轢だ。人間関係の門戸が開かれ、対人関係のリソースの振り分け方が高度化した。また、パードリックの様な"ちょっとアホな良い子"のイタさは、SNSで相互フォローしているせいで目に入ってくる頻度が増えた。誰もが見に覚えがあるような摩擦。

これらが、現代人の悩みの凄まじい比率を占めているのではないだろうか。

その摩擦は、文脈と情報過多の現代人間関係では、複雑すぎて何がコアなのか見えなくなっている。しかし、その「原型」が、ラジオすらない100年前の田舎で刺激的に描かれている点が素晴らしい映画だったと思う。

ただ、「イケてない男二人の微妙な人間関係」への解像度の高さが映画の肝なので、共学出身の男性の方が生育環境的にその事を読み解きやすくなっており、万人向けの映画とは言い難い気はする。あと、個人的に町山さんの提唱する「ゲイの話を描いた映画だ」という説に、やはり自分は納得できない。
もぎ

もぎ