フォスフォ

冷たい血 AN OBSESSIONのフォスフォのレビュー・感想・評価

冷たい血 AN OBSESSION(1997年製作の映画)
3.7
カポーティをおもわせるタイトルから、エピグラフはフィッツジェラルド。全体的に薄暗くアメリカと90年代日本のネガとして撮られている印象で、新興宗教、移動する銃、神戸の連続殺人をおもわせるようなチープかつ虚構的な犯人(鈴木一真)の造形、原爆での白血病、謎の白衣集団など、それぞれのモチーフにうっすら関連性を持たせつつ解体していく。ちょっと文学臭すぎ感はあるが雰囲気はけっこう好きな部類だった。

最初の注射器を映したカットから、全編にわたり静脈をおもわせるように画面が青ざめていて、そのなかを石橋凌が自分の失くした右肺と銃を追っていく。銃がファルスを象徴しているのは明らかで、最後に石橋凌がそれを取り戻しても、それは以前の男性性を回復したことにはならない。やはり何かが違うのであって、その間には家庭は崩壊しカップルは愛を求めて心中する、だが何が変わったともはっきり断言はできない。この戦後の世紀末の空洞をお前らはどう歩むのか? という風に最後は観客の側に銃口が突きつけられておわる。青山真治はアメリカ映画の非嫡出子なのだとおもう。

下駄の音が工事現場の音とつながったり、鳩の鳴き声や洗濯機の音が現実のものかとおもったら過剰なほど大きなボリュームで響いたりと、かなり音に拘った作りが巧い。そのなかで乾いた拳銃の発砲音はより空虚に際立ち、終盤の球場のシーンだと広い空間のなかに消失していって、より乾いた印象を受ける。前作のwild lifeからまた捻りを効かせてジャンプした作品だった。
フォスフォ

フォスフォ