広島カップ

下町の太陽の広島カップのレビュー・感想・評価

下町の太陽(1963年製作の映画)
3.8
本作の舞台は東京の下町、墨田区、足立区、台東区辺り。
山田洋次監督のライフワークである男はつらいよシリーズの舞台下町柴又はここより更に東に行った門前に商店の立ち並ぶ街だが、この辺りは当時は煙突から煙がモクモクと上がっている大小の工場が多い職人や肉体労働者の街。
山田洋次の二本目の監督作品である本作の製作は1963年。正に私が就学前の子供時代にリアルに生きていた場所と時間がここにありました。
若き倍賞千恵子が歩く荒川の土手(TVドラマ金八先生のオープニングのあそこです)に立って鉄橋を渡る京成電車を眺めていた幼児期の私。荒川の水は工場廃液で真っ黒で煙を盛大に出している煙突や自動車の排気ガスのせいで空気は最悪。モロに日本の高度成長期を支えた街並みがありました。
故に小児喘息持ちであった私は親が身体の事を考えてくれて四才の時にそこを離れ千葉に引越したのでした。
作品に出てくる若者達の夢はこの下町を出て郊外の団地に住むことだったようですが私の場合は上記の理由で一旦下町を離れたのでした。今はやはり下町が恋しくて再び住んではおりますが。

そんな決して身体には優しくない当時の下町を舞台に仕事に恋に若者達の風景をややエレジー調に描きます。
寅さんもそうですが山田洋次は裕福でない額に汗する労働者が本当に好きですね。働く風景が沢山出てきます。

「お金持ちでなくてもいい、暮らしていけるだけあればいい」「愛情だけじゃ結婚できないのかしら」。
苦しい生活の中で工場で働き一家を支えるヒロインは自分に正直に等身大に力強く幸せを探して生きようとします。

なかば強引に男(勝呂誉)に誘われて一夜限りという約束でデートをする二人。
浅草辺りでボーリングをしたり"はなやしき"で乗り物を楽しむ二人。
東京も今ほど明るい街ではなく宵闇に詩情が馴染む夜の風景の中で唐突に粋なセリフがありました。

女「あっ、流れ星」
男「そんなもん見えるのか?」
女「だって音がしたもん」
滝田ゆうの漫画みたい。

いかにも下町の香りがして私にとっては寅さんシリーズよりも懐かし〜い作品でした。
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