舞台は戦国時代末期の中国。３人の刺客を倒したことで、秦の王に拝謁した剣士・無名（ジェット・リー）は、その経緯を語り始めるが――。
トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイーも出演する武侠映画。
本作を初めて観た時、繰り広げられるワイヤーアクションと色彩の美しさが印象に残った。
空を駆け上がるかのような動き、スローモーションを多用した剣裁きなど、アクションの演出はお見事。
また、白、赤、青、緑など、場面ごとで基調となる色も異なる。華麗な衣装と鮮やかな色が際立つシーンの連続は、いかにもチャン・イーモウ監督らしい。
本作の構成は、無名と秦王の対話シーンが全て。
それぞれが語る刺客成敗の内容を、回想シーンのごとく挿入されている。
多数の秦軍に囲まれた中で繰り広げられる二人の会話劇は、壮大さと緊張感が伝わってくることだろう。
無名が３人の刺客を封じた経緯と真実は何だったのか。
華麗なアクションと絵巻のような映像とともにお楽しみいただきたい一本。
以下、ネタバレ気味の考察。
時を経て再鑑賞した今回、ストーリーの奥深さを味わった。
タイトルの「HERO／英雄」とは、誰のことを指すのか。
無名は秦王を刺殺できる立場だったにもかかわらず、行動に移さなかった。目先の復讐で戦乱が続くことより、命を懸けて「天下統一」の必要性を秦王に訴えたかったのだろう。
本作でも紹介されている通り、秦王は後の始皇帝のこと。「始皇帝暗殺」は未遂で終わったのではなく、意図して未遂にしたという解釈が成り立つ。
ご承知のとおり始皇帝は天下統一を実現する。まさに歴史上の「英雄」だろう。
しかし、その予見を現実的にした、無名や３人の刺客も同じく、歴史に埋もれた「英雄」なのかも知れない。
つい映像ばかりに目が行きがちだが、タイトルやストーリーも秀逸な作品だと思った。
