青二歳

わが町の青二歳のレビュー・感想・評価

わが町(1956年製作の映画)
3.4
これは…川島雄三お得意の容赦ないジェネレーションギャップドラマ…なのだが。頑固親父vs若者世代とかいう話でない。織田作之助原作か…まずベンゲット道路で大ダメージ。昔から移民政策は反対ないし超々慎重派なんですがその理由のひとつがこの事業。米領フィリピン大規模土木工事。雇用の受け皿がある所、移民はダイナミックな資本の活動でしょうが、結局奴隷まがいな労働環境が待っていたわけで。中でも多くの死者を出したベンゲット開通工事。さらに問題はその後。完成後は職のない移民が溢れある者はマニラ等に流れある者は然程の報酬も残らないまま日本に戻り…生活基盤を失った日本人が多く生まれてしまった。移民て出稼ぎや難民と違い雇用含め生活基盤を他国に完全に移すもので本来帰国を想定しないもの。ベンゲットは出稼ぎと片付けられない期間規模ですよ。20世紀にはその雇用は劣悪で過酷で現地人の人夫さえ集まらないレベルの、奴隷とまでは言わずとも使い捨てにされるような仕事だったわけで。例えば炭鉱なんて危険と隣り合わせでも高給取りだったから人気で人夫も集まりましたが、今そうした事ってあり得ますかね。しかもその雇用が切れたら異国でただの失業者。アメリカも日本もどんな保障をし得たのか?ベンゲットは20世紀の歴史の痛みを感じさせます。
話を映画に戻して…主人公はその危険なベンゲット開通をやり遂げた人夫!帰国後のお話です…オーソドックスな"不器用な男の一代記"の体だが…

彼はこの大工事を誇りに思い日本人の功績とさえ自負しています(人夫は多国籍ですが日本人は現場でかなり貢献したらしい)。しかし老いた時…時は戦後に至り世間はベンゲットを忘れていく。さらに若者世代からその功罪を突かれ、ピシャリと否定されてしまう。歳を重ねるごとに周囲や血縁者と広がってゆく乖離。また社会基盤の弱い人力車(今でいう個人タクシー)稼業。老いればまともな収入はなくなる。
孫は立派に社会人となるのが唯一の救い…とはいえ人の人生、救いなんていうのもおこがましい。彼は彼の人生を生き切っているわけです。しかしその姿が容赦ない。人生というものが怖くなった映画のひとつ。自分にはまだまだ覚悟が足りないらしい。"野いちご"観て感じた怖さと似ています。ただ数度見返すと、これは川島雄三の人生賛歌とも思えてきました。

なお長屋の住人が演技巧者揃ってます。いいキャラクターです。川島雄三が好きな方はぜひ。
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