つるつるの壺

トウキョウソナタのつるつるの壺のネタバレレビュー・内容・結末

トウキョウソナタ(2008年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

家庭崩壊から再生という物語は多々あるが、今作はそれぞれがここでなはいどこかを探して放浪してみるが、結局そんなものは見つからず仕方なくホームに帰ってくるという話で、この仕方なくがいい塩梅になっている。

男は仕事、女は家事、子供は手のかからない良い子というロールを各々が演じていたから何となくやっていけていた家族というものが、親父のリストラに始まり、次男のピアノ教室、長男のアメリカ軍への志願、母の失踪と次々と歯車が狂っていき、家というものが空っぽになる。父親以外は自分のロールから能動的に外れていったのに対し、父親のリストラだけは受動的なものだ。それはこの父親には他にやりたいことが無いからだと思う。いつまでもスーツを着て仕事に行くふりを続け、スーツを着ることがアイデンティティーになってしまった男の悲哀を感じるが、それから抜け出すことはかなり難しいと思う。自分と同じようにスーツを着たリストラ男を何度も見かけるのは男にとってはそれ以外は許されないという呪縛によるものだと思う。

次男のピアノの才能が開花しその演奏で映画は終わるが、このピアノというものはこの家庭には存在しないものであり、父も母もそういったものを通過していない。それでも次男には才能があった。長男もそうだが、子供たちは外部と関りを持ち、独自の世界観を築き上げている。親はそれを見守るしかない。