清水

ベルリン・天使の詩の清水のネタバレレビュー・内容・結末

ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 映像、雰囲気がとにかく良い。
 冒頭に語り手が淡々と1人で喋って、その下に無機質な字幕が出てくるのは古い映画にありがちだが安定に好きだ。作中のニックケイヴの音楽もかっこいい。
 ストーリーやあえて白黒で撮られた映像には重厚感があり後ろ向きだ。大戦が幕を下ろし、ひとつ大きな時代が終わろうとする。これからどうなっていくのか、追い討ちのようにノストラダムスの大予言が話題になった20世紀末。の、空っぽで不安な印象がある。
 皆がそれぞれの絶望について考え、電車はごうごうと鳴り、そんな中で子供は何の心配もなく無垢に不安定な鼻歌を歌う。それに追い討ちをかけるようにハープが皮肉に鳴り響く。それが妙に合わなくて気持ち悪く残酷だ。
 人間界にいる人々は、たいてい過去を向きながら未来について考えている。そして子供の頃に見ていた夢、無垢ゆえに知りたかった自分の存在、悪について……。幼少期の夢あった自分との乖離というか。
 ずっと悶々とあれやこれやと思考し続けていた人は、飛び降りた瞬間音声がなくなり言葉を失って静かになる。あの死んだ瞬間頭が空っぽになる感じが怖い。
 それに対して天使は人間を傍観することしかできない。悲しい。作中にあった「誰一人平和の叙事詩をまだうまく物語れないでいる」という語りは正にこれだな、と思った。世紀末の空虚感も相まって、『火の鳥』を思い出した。ギリシャ編とか未来編とか。
 全体的に詩的だったのも加えて、ウマル・ハイヤームの『ルバイヤート』も想起した。 「もともと無理やりつれ出された世界なんだ、生きてなやみのほか得るところ何があったか?今は、何のために来り住みそして去るのやら わかりもしないで、しぶしぶ世を去るのだ!」という一節があるけども、この虚しさが似てるのかもしれない。

 正直面白いかと言ったらそうではないが、芸術作品としては解釈のしがいがある。演出への憧れが増す。
清水

清水