むさじー

娘・妻・母のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

娘・妻・母(1960年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<女優競演で重層的に描く家族の現実>

還暦の母と二男三女の家族がいて、長男夫婦が家を継いで母と暮らし、二人の娘は他家に嫁いでいる。残りは夫婦だけで自由を謳歌する息子と、小姑暮らしの気ままな娘。そこに夫を亡くした長女が出戻り、姑との同居に悩んだ二女が別居を企てて、“家と結婚”の問題が噴出した。
また、長男は親戚の事業に投資して莫大な借金を背負い、財産分与と母の扶養義務の問題が生まれた。そして出戻り娘は母付きの再婚を考え、長男の嫁は何とか今までの暮らしを続けたいと願い、母は老人ホームへの入居を考える。
終戦から10年余が過ぎ安定を取り戻した時期の、典型的な中流家庭が舞台になる。まだ古い家のしきたりを残しながら、自由と平等という新しい風が吹き込む、そんな中で家族の本音と建前が飛び交う様を、成瀬は軽妙に描いていく。特に、母の還暦祝いで家族の親密さを見せながら、後には親の扶養義務をなすりつけ合う光景のギャップが印象的だ。
それと、出戻り娘が思い悩む母付きの再婚話がほろ苦い。馴染めない結婚と夫の死で出戻り、一時は若者との恋愛に心ときめかせながら、再び不本意な選択をする展開には少し切ないものがある。
タイトル通り女性目線の映画で他愛ないホームドラマだが、演者と演出によって、こうも感情の機微が豊かになり、味わい深い世界が生まれるのかという見本のような映画。当時の東宝のオールスターキャストで、雰囲気や世界観はどことなく小津『東京物語』を彷彿とさせる。
むさじー

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