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『霧笛』に投稿された感想・評価

半兵衛

半兵衛の感想・評価

4.0
1920~30年代の邦画界には、巨匠と呼ばれ話題作を次々と放った村田実という映画監督が存在した。だが残念なことに彼の監督した作品の大半が消失してしまい、早くに亡くなってしまったこともあり現代の映画ファンからは数少ない現存作品で松竹が本格的に製作した『路上の霊魂』の監督としてしか認知されていない(もっとも、当時は映画監督という概念が曖昧で実際は総指揮の小山内薫が監督的立場にあったという説もある)。

今回鑑賞した『霧笛』は完全な状態による貴重な村田実作品ということで楽しみにしていたが、明治初期の横浜を舞台にならず者と酌婦、酌婦を愛人にする外国人による愛欲の三角関係をアクションを交えてエキゾチックに描く語り口は流暢かつ美麗でサイレント映画としての完成度は高くて巨匠の才能の片鱗をまざまざと見せつけられた。

冒頭外国人居留地だった横浜港町の風景を外国人、横浜ロケの映像、貧しい日本人の生活を交差に映し出し映画の雰囲気を観客に伝える話術で一気に引き込まれる。そうした演出に加えて邦画黎明期に活躍した青島順一郎の蝋燭の火やランプの明かりを生かした美しい映像や、後に溝口健二作品で活躍する水谷浩(本作では水谷浩司名義)の明治の風俗を濃厚に醸し出す美術も見事で映画の世界を一層芳醇にしている。

愛と侠気、そこに割り込む欲望がクロスした果てに迎えた降り続く雪と船の煙とともにはかなく消えていくラストが心に残る。

主役の与太者を演じる中野英治の、ルパン三世に通じるバタ臭い顔立ちと格好がエキゾチックな物語にぴったり、ヒロインを演じる志賀暁子も訳ありな女性像をアダルトなエロスを出しつつ好演している。そして外人役を違和感なく演じる菅井一郎の熱演も見所。

ちなみに今回は上屋安由美氏によるピアノ演奏付きで鑑賞したのだが、彼女の映画のリズムを心得た演奏が素晴らしくて作品のムードを高めつつより劇中の世界に入り込むことが出来た。やっぱりサイレント映画は音無よりも当時のように弁士か演奏があったほうが雰囲気があるな。
・村田実監督によるサイレント作品。小津安二郎監督作品の後に観たからか、観づらさを感じることとなってしまった。

・明治初期における横浜の居留地という、特殊な舞台設定があってはじめて人間関係が動き出すにも関わらず、字幕の状況説明が長くて読みきれず物語に置いてけぼりになってしまう。(私自身の知識の無さにもよるが)

・クーパーの愛人お花の煙草を嗜む姿や、後半の銃撃戦は見応えがあったものの、全体としてはぼんやりした印象となった。大佛次郎の同名原作未読のため、そちらも読んだら感想が変わるだろうか。
完全無声上映にて。後期サイレント並びに日本映画史の最大の遺産。
モダン且つ生々しい映像連鎖に何度も打ちひしがれる。冒頭から異国情緒あふれる横浜居留地の海上にいる異人たちから幕開けするが、ネオレアリズモを遥かに先取りするような豊かな空と陸地、そして海原を繋いでいく風景ショットのモンタージュに心踊る。
なんといってものらくらな主人公が異人のスリをすることから、その異人の家で女中のごとくエプロンを身に纏い働く姿は『リバティ・バランスを撃った男』を遥かに予告しつつ、しかし同時に元来不良の主人公はこの雇い主が神戸へ向かうや否や仕事を放棄し(「自由だ!」の拡大していくテロップの挟み込み方も見事!)、横浜へ遊びに出向くのだが、そこでのお祭り騒ぎの描き込み方もなんとも見事なフレーミングの中に同時にドキュメンタリーのような息吹が宿るのだから驚愕。だが、この場面はヒロインと出会う前段階でありながら、その後堅気な男の友情、忠義を育むヤクザの端くれとのファーストコンタクトであり、彼らがナイフを引っ込め、腕っぷしで戦い合うのだが、通常の対決し合う二人のカットバックの直後に突如闇夜に浮かぶ月を映し出すという奇妙にして巧妙な画面の異化がなされ、その結果として主人公はこのヤクザ者の誠意に導かれるがまま運命のヒロインと邂逅するのだから、全てはあの闇夜の月のワンカットが導いたものとして捉えてなんらおかしくない。そして事実、説話的にこの男女は悲劇へと導かれざるを得ない。

まだこれだけで前半の導入部に過ぎないのだからこの映画の魅力をあげればキリがないのだが、恐ろしいのはこのヒロインから与えられた外国製の腕飾りをきっかけに、ヒロインが主人公の雇い主である異人と恋人関係であることを悟るシーンと、それによって誘われる主人公の心理と、見事なアクションへの翻訳である。
まず、ヒロインが恋人である異人の写真を飾っているところを見つけてしまう場面(これもまた『緑色の部屋』を遥かに予告する)の直前、ヒロインの家へやってきた主人公はヒロインが玄関から部屋へと誘おうとするのに対して、ハシゴを伝って2階にあるヒロインの部屋へ窓からなんなく侵入する。(これもまたリヴェットの『Mの物語』のごとく)主人公は常に先回りしてしまうが故に悲劇を引き起こすことが予告されるようだ。この勝気な先回りによって、主人公は雇い主が神戸から帰るや否や、雇い主の家の廊下の雑巾掛けで意図的に挑発的身振りとして腕飾りを身につける。そして、それによって主人公はありもしない盗みの容疑をかけられ、投獄されてしまうだろうし、この事件をきっかけに常に先回りしていた主人公の行為はひたすら受け身のアクションへと変容する。

投獄直後、雇い主が恋人と主人公の関係を知ると、今度は治外法権制度を利用して、更に恐ろしいことに異人船でかつてこの雇い主が妻も子もなく植民地の人間を殺してきたのと同じように、主人公を(日本の法は機能しない)海原の異人船で殺そうと目論む。事態の深刻さはもう止められないと悟ったヒロインは主人公を慕うヤクザの端くれに頼み救出を祈るのであり、この端くれもかつて日本に美徳として備わっていた義理精神で危険を顧みず船に乗り込み、そしてそれ故に殺される。
異人船の中で行われる収容された植民地の人間たちの殺戮は、グリフィスのような不寛容な悲劇と、ヒロインの祈り(その審美的な美しさに目を奪われる)による絶体絶命な状況下での救済を反復するが、明治期の日本を物語る今作はそこで留まらず、さらに悲劇的結末を用意する。

主人公を救ったのがヒロインであったことを伝えたのは、端くれのヤクザの親分にあたり、彼は異人の司令に従い、下っ端の人間に命を張らせる役目を担う日本人だ。彼の告げ口をきっかけに主人公は再びヒロインとかっての雇い主と再会するのだが、ここで主人公は今一度先回りのアクションを必然的に獲得し、それ故にこの異人をも圧倒してバーから追い出すことに成功する。付け加えるなら、この異人に迫る場面で意図的に180度ルールが無視されたカットバックがなされていたことも見逃せない。拳銃を突きつける異人に対して率先して自らの額を銃口に差し出す主人公の眼差しの力強さにはまさに「shot」と呼ぶに相応しいものがある。

かつての雇い主である異人を追い出し、ヒロインと結ばれるかに思われたが、結局のらくらな自分とは一緒になれないとヒロインを突き放すその無情さに加えて、先の告げ口をしたヤクザの親分がテーブルに置かれた拳銃を手に引き金をひく。主人公を庇うヒロインに命中すると、倒れ込むヒロインによって扉はその無情さをさらに高めるが如く前後する。ヤクザの親分はさらに引き金をひき、今度は二発主人公に命中するも、瀕死の中で主人公はこの親分を路地へと追いやり、締め殺す。再びヒロインの元へ戻った主人公は「死んぢゃいけない、死んぢゃいけない!、このまま壁に打ちつけてやろうか!」と訴える。「ええ、いいわ」と答えるが、そのまま息を引き取るヒロインと、それにつられるように共に倒れ込む主人公。生き残ったのは追い出された異人だけであることを強烈に批判するようにラストカットに海原を渡る異人船が挿入される。

この映画が描いた明治期の日本人の表象は今なお強烈な批評性として現在に重く刺さる。帝国主義の時代が生んだ歴史の闇に葬られた影の人々。そしてその悲劇は、帝国主義の脅威を間違った形で克服しようとして、反復した事実を導き、こちらに切り返す。

この映画は紛れもなく劇映画だが、冒頭や中盤、そして闇夜の月といった即物的なショットたちは心理を孕む人間ドラマにメスを入れ、ドキュメントとしての切り返しを映画の内部に密かに然し紛れもなく挑発的に差し込んでいる。もっと言えばテキストの挿入ひとつとっても、説明的な効果以上の「叫び」として異化するように刻まれていなかったか。今一度あの拡大されながら主張される「自由だ!」のテロップを反芻して、何度も見直すに値する。

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