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アルファヴィルのFrapentaのレビュー・感想・評価

アルファヴィル(1965年製作の映画)
4.0
とても面白い(interestingの方)作品。1970年公開で、以降のSF作品の土台になってるのが明白。また過去作品とも相互関係の深い作品なのでSF映画に興味ある人は観ると良いかも。


今作は近未来SFなのにセットも作らずパリ市街を活用した実験的映画だそう。演出が特に興味深くて、実在の街の風景にも関わらず近未来世界に見えてしまうのがすごい。また、セリフの言い回しやキャラがまた特徴的で、かの有名なブレードランナーや2001年宇宙の旅など、今作以降のSFに大きな影響を与えているのも頷ける。

まずは本作においてアルファヴィルを全体主義(ファシズム)化しディストピア化しているα60は2001年宇宙の旅の人工知能HALの参照元だろう。今作はさまざまなライトを画面中央に映すことでα60を存在している雰囲気を出している。2001年宇宙の旅ではHALの実在を画面中央の赤いライトで示しているため、類似性をみてとれる。
「ーー破壊の論理的帰結にほかならない。」こんなスタイリッシュなセリフはなかなか思いつかない。カッコ良すぎるので使いたい。そしてこんなことを言っていたα60が論理的破綻で壊れるのも大好き。

ブレードランナーに関してはフォンブラウンの娘=タイレルの姪(同然の)レイチェル、レミーコーション=デッカードで関係性がほぼそのままだった。愛について認識するシーンはブレードランナーでも類似するシーンがある。同じく感動的。


これまでは影響を与えた作品を並べてみたが、逆もある。今作が他作品に影響を受けていることも露骨に表出している。

その一つに間違いなく「1984年」(原作は1948年作)が入るだろう。愛という単語が辞書(聖書)から消されると愛について思考ができなくなる。この現象はまさにビッグブラザー側がしていた言語の統制だ。多様な単語を一つに統合することで思考の統一化を促す。または二つ以上の単語を省略することでその単語自体から読み取れる意味を少なくし、次第にその言葉自体を形骸化させる。作中の雰囲気はゴダール特有そうな無闇にカットしない作業感のある撮り方もあって軽いように見えてしまうが、実態はなかなかに恐ろしいディストピアだ。
ちなみに途中同僚からレミーに託された詩集はポールエリュアール「自由」。エリュアールは戦時中ナチスドイツの圧政に徹底的に立ち向かうレジスタンスで、アルジェリアで印刷した「自由」をイギリスの空軍機からフランスにばら撒いてレジスタンスたちを鼓舞したそうだ。この詩集は今作でも「暗闇(圧政)に光を灯すもの」として機能する。
また、町山氏の解説では詩の一部しか触れられなかったが、全文読むと心を震えさせる文章なのがわかる。人間の本来の姿を描いたようなまさにシュールレアリズム的な詩集で、これを読めば言語が統制されていてその単語が思い浮かばないにも関わらず、何か心を動かされる単語が奥底から生まれそうになる感覚に陥る気がした。原語がフランス語なので勉強したいなと思った。

他にもちょうど直近観たが「ラジュテ」(1962)もモノクロで実在する街を使って未来感を演出しているので今作は影響を受けていると思った。


なかなかに難しく冗長に見えるところもあったが、往年SF作品が好みだったのでシンパシー感じられて面白かった。


以下町山氏の解説(https://tomomachi.stores.jp/items/601290e9aaf04370f2b2a9e4)をもとに色々メモ。

・レミーコーションは"Let me caution"のダジャレだそう。元々B級アクション映画の主人公で、シャレを言いながら人を殺して任務を遂行する「キスキスバンバン」モノだった。その様相が浮き出るのは今作では終盤になってから。

・ゴダールとアンナカリーナの関係性も聴いてて興味深かったが、これはもう少し彼の作品を観てからの方がさらに面白そうなのでひとまず割愛。
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