櫻イミト

若い娘の櫻イミトのレビュー・感想・評価

若い娘(1960年製作の映画)
4.5
私の全作品の中で何が最も好きかといわれたら、この「若い娘」をあげる。 ――ルイス・ブニュエル

「ビリディアナ」(1960)の前作。14歳の素人キイ・ミアスマンをヒロインに起用したロリータ映画。ブニュエル監督自身が「もっとも私が出ている映画」と語るベスト作。

アメリカ南部の小島。中年の密漁監視官ミラーは老雑役夫に先立たれた14歳の孫エヴィーに劣情を抱く。この島に黒人ジャズマンのトラヴァースがモーターボートで辿り着く。彼は白人女性暴行の容疑で逃走中だった。。。

わかりやすくとても面白かった。エンターテイメントの中にブニュエル監督の要素が詰まっている。生と死、エロティシズム、差別、宗教をストレートに描き出している。映像も好調で、島が舞台だからかベルイマン監督を彷彿とさせた。

ブニュエル記号も満載だった。シャワーを浴びる少女の足、その足に履かせるハイヒール、踏みつぶされる蜘蛛、皮を剥かれた兎(この赤裸兎が出てくる映画は名作が多い)。そして注目すべきは初期作「糧なき土地」(1932)との呼応。雄鶏が、同作では祭りの生贄として首を引きちぎられ、本作では狸に貪り食われる。また養蜂のハチが群がるカットも共通している。大雑把に解釈すれば、監督にとって両者は弱肉強食の象徴なのかもしれない。

本作には「雀」(1926)や「狩人の夜」(1955)と同じく南部ホラー&子供残酷モノの雰囲気が漂っている。一見、B級娯楽映画のようにも見えるが、枠を突破した要因としてはヒロインのキイ・ミアスマンの存在が大きい。ブニュエル監督によれば、彼女の両親の希望による出演で全くの素人のため演技が出来ず頭を抱えたとのこと。しかしそれが功を奏し「彼女にとって映画はどうでもよかったことで、(結果)彼女は“正当な”評価を勝ち得た」。映画に媚を売らない少女が生身の輝きを放ち、ブニュエルの創作に幸福な破壊をもたらしたと言えるだろう。

ラストシークエンス、ヒロインがハイヒールでケンケンするのが秀逸で、物語のオチも見事に決まっている。個人的にも好みな隠れた傑作。

※キイ・ミアスマンはその後「禁じられた恋の島」(1962)に出演し引退

※ベルイマンとブニュエルを比較論考する際に大きなヒントとなる一本だと思う
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