Arata

三人の名付親のArataのレビュー・感想・評価

三人の名付親(1948年製作の映画)
4.7
クリスマスプレゼントの起源と言われる、キリスト教「東方の三博士」になぞらえたお話で、作中にもそれを直接的に表現する台詞もある。


ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演、冒頭字幕で追悼している名優ハリー・ケリーのご子息ハリー・ケリーJr.が出演。(敬称略)


西部劇だが、銃撃戦などのアクションシーンはほぼ無い。


【あらすじ】
銀行強盗をした3人組が、警察から逃れてたどり着いたのは枯渇した水飲み場で、偶然出会った妊婦の出産に立ち会い、赤ん坊は無事に産まれるものの、母親はそのまま衰弱死してしまう。

赤ん坊を託された3人は、何とか力を合わせてミルクを与えたり、街へ行き助けを求めようと出発する。

行けども行けども水が一滴も無い様な荒野を進み、喉はカラカラ命もからがら、警察の追跡を振り払いながら街(ニュー・エルサレム)を目指す。

果たして彼らの運命は、赤ん坊は助かるのか、警察から逃れる事は出来るのかと言う事を、聖書をなぞって描かれるクリスマス西部劇。



【感想など】
荒野を行く途中、街の方角を見失いかけるも、空を見上げると星が輝いており、その方向へと再び歩を進めるのだが、この星はさしずめベツレヘムの星とでも言う事なのだろう。


酒場が裁判所の役割を果たしている。
裁判終了後、裁判官が酒屋の主人に開店を促すシーンが興味深い。
また、確固たる法律が無い事も作用してか、人情が判決の裁量となっている点も、個人的にはとても良かった。
デジタル的に判断し難い要素には、やはり人間としての魅力が溢れている。


産まれたての赤ん坊に、オリーブオイルの代わりにグリースを塗るシーンは、映像の中の3人と一緒になって声を出して笑いが出る程に可笑しかった。
警察には追われ、馬は居なくなり、子育て経験もほとんど無いままに見ず知らずの赤ん坊を託され、食べる物どころか水も無い様な過酷な状況でありながら、思わず声を出して笑ってしまうと言う程の破壊力のある可笑しさで、これから如何しようも無い位に辛い事が身に降りかかった時には、このシーンを思い出したり、実際に再鑑賞したいとさえ思えた。


サボテンを切って、中身を絞って水を集め、水筒に保管し自分たちの飲み水にしたり、沸かしてミルクを作ったりしている。
極限の状況で、水を飲む様に勧められるが、「俺は善人じゃねえが、赤ん坊のミルクの水は飲めない!」と言った内容の台詞がある。
正義は、法律や政治や宗教など様々な状況下で変わってしまうが、お腹を空かせた子どもに、ご飯を食べさせてあげると言う正義はどこの世界でも変わらないし、自己犠牲のヒロイズムは簡単に出来る事では無いと言う、アンパンマンの「やなせたかしイズム」と共通する。
これはもはや、正義を超えて愛とも言える。
やはり最後に大切な事は、正義では無く愛なのだと改めて気付かされる。


【総括】
非常に宗教的な作品ではあるが、それと同時に人間らしさも強く感じる。
宗教を超えて、感動を覚える良作。
Arata

Arata