Arata

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェストのArataのレビュー・感想・評価

4.5
3月鑑賞分。
ドル3部作の劇場鑑賞前、予習的に再鑑賞。

Filmarks上は、視聴出来るサービスが無いとなっているが、U-NEXTにあるのは166分と表示されているので、おそらくこちらのバージョンなのだと思われる。


3月22日から公開の、ドル3部作(ドル箱3部作)の前に、予習的に鑑賞中のマカロニ・ウエスタンの仕上げに、セルジオ・レオーネ監督が西部劇との訣別を目論み制作されたとも言われているこちらの作品を。


【あらすじ】
開拓途中のアメリカ西部のとある街のはずれ、アメリカンドリームを夢見て慎ましくもしたたかに暮らすマクベイン一家が、突如襲われる。

ニューオリンズの高級娼婦のジルは、マクベインとの結婚の為に当地を訪れるが、一家の遺体が無言の出迎えをしている。


流れ者の「ハーモニカ」、街のボス「フランク」、賞金首の「シャイアン」、鉄道王「モートン」、それぞれの想いが、西部のはずれで交錯する。


【感想など】
・タイトル
長らく「ウエスタン」として知られていた作品。当時は141分の短縮版として公開。
初公開から50年、セルジオ・レオーネ監督の生誕90年、没後30年と言う節目の2019年に、日本でも完全版が公開され、それを機に英題のカタカナ表記に変更。
短縮版は、依然としてウエスタンのままの模様。


・スタッフ
セルジオ・レオーネ監督と、エンニオ・モリコーネ氏による音楽と言うゴールデンコンビ。
原案に、ホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェント氏、ラストエンペラーなどで知られるベルナルド・ベルトルッチ氏が名を連ねる。
美術スタッフは、レオーネ監督を複数作品で支えるカルロ・シーミ氏。
撮影は、続・夕陽のガンマンに続きトニーノ・デル・コリ氏。
編集も、同じく続・夕陽のガンマンに続き、ニーノ・バラーリ氏。
また、製作費は500万ドルで、荒野の用心棒の20万ドル、夕陽のガンマンの60万ドル、続・夕陽のガンマンの120万ドルと、どんどんと跳ね上がっており、いかにヒットを記録し、そして期待されていたかも感じられる。



・キャスト
荒野の用心棒で、真っ先にオファーをしたと言うヘンリー・フォンダ氏、次にオファーをしたと言うチャールズ・ブロンソン氏の両氏が出演。レオーネ監督の念願成就と言ったところか。
正義の役を演じ続けてきたヘンリー・フォンダ氏に、極悪非道な役どころを演じさせると言う事が、それまでの常識を覆したと言われているが、それらを踏まえて鑑賞すると、今作のテーマである西部開拓時代と言う一時代の終焉と絡めて、より一層その様に感じる。

そして、過去作にはほとんど登場しなかった女性のキャラクターが、今作ではとても重要な意味を含んでいる。
男による男臭い世界から、女性が逞しく生きる世界への移行。


・ハーモニカ
チャールズ・ブロンソン氏がいたる場面で演奏している。
私は、演奏をする事で生計を立てていた時期がほんの一時だけあったのだが、その時専門的に演奏していたのがハーモニカだった。
なので、曲の中にハーモニカが使用されていると、つい耳を傾けてしまう。
当然、このハーモニカはプロの方が演奏しておられる訳だが、私が注目したのはハーモニカの構え。
初登場の時を除いたほとんどの場面で、構え方が左利きの構え方だが、時々右利きの構えもしている。
更に言えば、ハーモニカを握り込むのでは無く、指先をピンと伸ばした構え方が、少しお上品過ぎる様にも思える。
余計な所から空気が漏れない様に、両手で覆うと言うのは正しい構え方だが、あの雰囲気のプレーヤーは、そもそも正しい奏法を学んでいる様には思えないし、周りにいたであろう他のハーモニカプレーヤーも、きっと握り込むスタイルなのでは無いかと考えられる。
私の歴史的な認識等が間違っているのであれば、ぜひご指摘願いたいのだが、何故あの様な構え方なのかが疑問に感じてしまった。




【お酒】
ストーンジャグのウイスキー。

崖の中腹、日本で言えば投入堂が置かれそうな雰囲気の場所で、乱暴な話し合いの最中にヘンリー・フォンダ氏演じるフランクが飲んでいる。

現在でも、プラットバレーと言うコーンウイスキーなどは、この場面で出てくる様な形状のボトルで販売もされており、雰囲気に浸る事は容易に可能。
“stoneware flagon”と英語で検索すると、空き容器を含め、様々な形状の似た様な瓶がヒットするので、ご興味ある方は是非。
stonewareで石で出来た器、flagonで細口で蓋付きの瓶と言った意味。
ちなみにstone jug/ストーンジャグは、「石で出来た広口の器」と言う意味もあるが、「ウイスキーなどのお酒を貯蔵する瓶」と言う意味もある。

ところで、このジャグに息を吹き込むと、音が鳴る事を利用し、それを楽器として演奏するメンバーがいるバンドの事を、「ジャグバンド」と言うが、その際に演奏する瓶は、写真などで見る限り、石で出来た物を使用する人がほとんど。
また、日本でもジャグバンドをやっている方々がおられ、私も良くご一緒させて頂いていたのだが、やはり石の瓶を使用している方が居られた。
ジャグバンドの編成は、洗濯板を打楽器にしたり、タライと棒と糸を組み合わせて弦楽器にしたり、楽器を持てない環境にありながら、豊かなアイデアにより産まれた楽器、そこにハーモニカなどが混ざる事も多い。
フランクとハーモニカが、一緒にジャグバンドを組むと言う世界は、残念ながら訪れなかった。

閑話休題、フランクがストーンジャグをラッパ飲みにする姿を見る事が出来るのだが、この飲み方が独特なものだった。
言葉で説明するのが難しいのだが、右手の指で取手を持ち、それを左肩のあたりまで持って行き、その位置から傾けて飲んでいる。
通常、取手付きの器から飲み物を飲むときは、右手の指で取手を持つならば、そのまま右手を右の肩の位置のあたりまで持ち上げて飲むと思うが、ここでは正位置の右肩では無く反対の左肩へ持って行き、腕と顔の位置が交差する様な状態で飲んでいる。
あの形状の瓶のラッパ飲みの作法が不明なのでよく分からないが、一風変わった飲み方に思えた。
当時の人達にとっては、あの様な飲み方が一般的だったのだろうか。調べてみたい。

中身についての言及は無いが、おそらくはウイスキーで、彼の立場からして、そこら辺の粗悪品では無いとも思われ、ひょっとすると特別に仕込ませた上等なお酒かも知れない。
今作が撮影された当時も、既に少なくなっていた形状のボトルなので、お酒と言う身近なアイテムに時代を感じさせる演出がなされているあたりからも、世界観の表現にひと役買っていると感じる。




【総括】
エンターテイメント作品としての要素が強かった「ドル3部作」とは一線を画す、「ワンスアポンアタイム3部作」と称される作品群の1作品目。

冒頭10分のほとんどセリフの無い、一見冗長に感じる様なシーンにすら妙に引き込まれてしまう、そんな不思議な魅力溢れる映像に、166分があっという間に経過する。

登場人物の背景を、セリフでは無く、ロングショットと極端なクローズアップの映像や、過去の思い出をインサートするなどして説明し、エンニオ・モリコーネ氏の音楽がそれを盛り上げる、非常にドラマチックな作品。

鉄道が敷かれ、西部開拓時代が終焉を迎える。いつの時代も、前時代と新時代とが交差し、切り替わり、そして進んでいくと言う事を、男達が倒れ、去り、女性が逞しく生きる様子を描く事で表現されている様に感じるドラマチックな西部劇。
Arata

Arata