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続・夕陽のガンマン/地獄の決斗 4K復元版のArataのレビュー・感想・評価

4.7
ドル3部作の、4Kリマスター版劇場鑑賞を完走。

上映開始から3週間経ち、この日は朝から嵐の様な雨の火曜日、そんな日の午前中の回にしては、それなりにお客様が入っていた印象。

3部作では、個人的に一番好きな作品だったので、最も楽しみにしていた。

今回、劇場での観賞と言う体験は、大変素晴らしいものとなった。
ただ一点、4K上映と言う事で大きめの劇場にも関わらず、音がサラウンドではないと言う事が、上映前に流れる予告などのほとんどがサラウンドなだけに、やや物足りなく感じてしまった。

それ以外は、映像もとても綺麗だし、編集も完全版だし、話が進んでみれば音も気にならないどころか、大変素晴らしいものだったと感じた。あくまで、予告などから続けて観た時の、音が聞こえてくる方向から感じられる印象のギャップが大きかった、と言う話。



【あらすじ】
割愛。


【感想など】

・タイトル
原題は、イタリア語で“Il buono, il brutto, il cattivo”。
英題は、“The Good, the Bad and the Ugly”。
どちらも、意味としては「良い者、醜い者、悪い者」となる。ただし、原題と英題では2個目と3個目の言葉が入れ替わっている。
クリント・イーストウッド氏とリー・ヴァン・クリーフ氏の2人が、大ヒットしたセルジオ・レオーネ監督の前作「夕陽のガンマン」から引き続き出演と言う事で、「続」を付けた邦題にしたのだと思われる。
「夕陽のガンマン」のラストシーンは夕陽のシーンだったが、今作はラストどころか夕陽のシーンはまるで出て来ない。
また、サブタイトルの「地獄の決斗」と言うのは、決斗に関しては終盤の三つ巴の決戦を意味しているのだろうが、地獄に関しては闘いの場が墓地なのでその様な単語が使われたのかなと解釈。


・スタッフ
セルジオ・レオーネ監督、エンニオ・モリコーネ氏の音楽と言うゴールデンコンビ。
レオーネ監督の「荒野の用心棒」以降、全ての作品でモリコーネ氏が音楽を担当されている。
彼以外にも、前作の「夕陽のガンマン」スタッフが多く参加しており、作品の世界観を演出するのに、ひと役もふた役もかっている事と思われる。


・製作
「荒野の用心棒」が20万ドル、「夕陽のガンマン」が60万ドル、今作「続・夕陽のガンマン」が120万ドルと言われており、着実にスケールアップしていて、その恩恵を存分に感じ取れる。
ロケ地はスペインで、スペインの軍隊が全面的に協力。
スペインの軍人さんが、アメリカ南北戦争時代の南軍北軍に分かれて、軍服をまとってエキストラ出演されている。
有名な橋の爆破シーンも、軍の知識の元、どこにどの量の火薬を仕込めば爆破出来ると言う計算に従い実行。CGでは無い本物の火薬による迫力ある素晴らしいシーン。


・キャスト
クリント・イーストウッド氏が3部作全てで主演、リー・ヴァン・クリーフ氏が前作に続き出演、イーライ・ウォラック氏が過去2作品で敵役で出演していたジャン・マリア・ヴォロンテ氏に替わり出演、大変素晴らしい御三方の共演。

イーストウッド氏は、今作でも自らは名前を名乗らない。
激戦区で北軍に捕まり、大尉に名前を尋ねられても名前を名乗らずやり過ごす。
メキシコ人のトゥーコは、アメリカ人に金髪が多い事から「金髪野郎」転じて「アメリカ野郎」みたいなニュアンスの「ブロンディ」と便宜上呼んでいる。

ヴァン・クリーフ氏が、前作同様頭の切れる凄腕のガンファイターとして登場。
しかし、今作ではタイトルの通り「悪い者」として出演。それでいて、通り名は「エンジェル/天使」。「エンジェル」が「悪い者」と言う仕掛けが、とても興味深い。
文化放送で放送中のラジオ、「SAYONARAシティボーイズ」の冒頭のラジオコントが好きでよく聴いているのだが、先々週の回だったか、「優しく囁く悪魔」と、「言葉遣いも悪く怒鳴り散らす天使」が出てくるコントがとても面白かった。
コント終了後のフリートークのコーナーで、「詐欺師などの悪い人ほど優しい口調で、身内の人などあなたの事を想ってくれている人ほど厳しい事を言う。」と言う様な内容を話されていて、妙に納得した事を思い出した。


・衣装
イーストウッド氏演じる名無しの男の衣装が、過去2作で共通していた、ポンチョを横位置でまとい、中にはデニムのシャツにベスト、頭にはツバが広く頭頂部が角ばった帽子を身につけているが、今作の終盤までは、長めのコートに別の帽子を身につけている。
捕虜になりその後保釈されるが、その際にエンジェルからシャツ、ベスト、帽子を授かり着替える。
また、墓地のシーンの直前で、重症の兵士にコートをかけてあげ、代わりにその兵士の傍らにあったポンチョを横位置でまとい、過去2作での名無しの男の衣装が完成する。つまり、過去2作よりも時代設定が昔にあると言う事を表している様に思える。
3部作の3作品目が、最も昔と言う設定になる事で、3部作の世界が、現実の世界とは切り離されていて、永遠に繰り返す無限ループ状態にあるとでも言っているかの様に感じた。
また、メキシコの衣装であるポンチョをまとう事で、メキシコ人であるトゥーコの仲間になったとも誇大解釈出来なくも無い。



・名文句
「世の中には2種類の人間がいる」と言う名文句は、実は今作が出典。
作中何度も登場するが、今作には「良い、悪い、醜い」 と言う3種類の人間が登場するのだと、タイトルが示している通り、そんな簡単には割り切れないのが人間なのだと感じる。
非常に哲学的と思える。


・地獄の決斗
ラスト、トゥーコが墓を走り回り、3人が集結し、円形闘技場の様相を呈した墓地の中心部で、エンニオ・モリコーネ氏の壮大な楽曲と共に、目線や指先の細かな動きがハッキリと分かるほど極端にクローズアップされたカットと、全景が映し出されそれぞれの位置関係を確認出来るロングショットのカットとが交互に映し出され、役者さんの表情と劇伴の音楽と編集によるカット割と言う、映画の魅力を詰め込んだ映像で、こちらの緊張感も最高潮に達する。

ほとんどセリフも無く、特に最後の5分くらいは、ただひたすらに睨み合う。
場面、ストーリー、共に展開の無い5分だが、早送りや、倍速再生では得る事の出来ない、心理の移り変わりなどを感じとる事が出来る極上の演出。
黒澤明監督の椿三十郎の決闘シーンもそうだが、ファスト映画や、あらすじだけを読んで映画に触れている方にこそ、一見冗長に思えるかも知れない物事の中に、実は重要な要素があるのだと言う事を思い直すきっかけになって欲しいとさえ思う映画の一場面が、今作にもある。



【お酒】
ブルドンジン、戦場のお酒。

・ブルドンジン
ジョン・ウィリアム・バードンと言うイギリス人がスペインに渡り、お酒の会社を設立。
銘柄の読み方は、創業者の名前の英語読みのバードンが、スペイン語読みのブルドンに変更になっている。
捕虜収容施設内で、食事をしているエンジェル。
そこへ呼び出しをくらいやってくるトゥーコ。
エンジェルはトゥーコに食事を勧めるが、トゥーコは口に運ぼうとするも、毒が盛られているのでは無いかと疑い、スプーンが止まる。
その様子を見ていたエンジェルが、「毒なぞ入れていないんだから、とっとと食えよ」と言わんばかりに、トゥーコのお皿からひと口食べてみせる。
そのやり取りに会話は無く、お互いの表情の演技が痺れる程に素晴らしい。
そして、その時の食卓に並んでいるのがブルドンジン。
エンジェルはスープの器の様な、バカでかいぐい呑みの様な物にこのジンを注ぎ、2人はそこで乾杯をしている。
ブルドンジンがラベルがハッキリと見える様に、大きく画面手前に映し出され、ボトル越しにエンジェルが座っているカットもあるので、ひょっとしたらスポンサーなのでは無いかと思う。
今作をはじめ多くのマカロニ・ウェスタンは、アメリカの西部が舞台と言う設定だが、そのほとんどはスペインがロケ地だったりもする。
このジンは1960年代に作られる様になった銘柄なので、作品の舞台である南北戦争時代(1861-65)にはまだ存在していないはずである。
今作の撮影には、スペインの軍隊が全面的に協力しているとされているので、もしかしたら軍の支給品のジンだった可能性も考えられる。有識者の方にご教示願いたい。

当時ブルドンジンは1種類しか生産されていないが、現在では3種類を生産している。
その内の近年になってリリースされた2種類ミントとチェリーは、日本でも購入可能。
残念ながら作中登場する銘柄は、現在日本での取り扱いは無い。
作中のお味とは異なる味になるが、ちょっとした雰囲気を味わうには十分楽しめると思われる。

その2種類のうちの1つ、ミントのジンは既に飲んでいて、大変美味しい。チェリーやオリジナルもいずれ飲みたい。

作品のタイトルに合わせて「the original,the mint and the cherry 」とでも言っておこう。
もしくは、作中の名文句の調子を合わせて言うなれば、「日本には2種類のブルドンジンがある。ミントか、チェリーだ。」と言ったところだろうか。


・戦場のお酒
戦地で精神的に追い込まれた兵士たちの代表として、大尉がお酒について、
「北軍と南軍にも共通点がある。それは酒臭さだ。」
と語っている。

極限状態でお酒を飲んで、戦意高揚、現実逃避など様々な効果を得る。どちらの軍にも、お酒が必要不可欠なのだと言う事を言い表している。

重傷を負った大尉に、ブロンディは「気つけの一杯だ」と言って酒瓶を差し出す。
そして、ブロンディとトゥーコは、無意味な戦争を終わらせる為に、両軍が奪い合う「橋」を爆破させ、戦争の強制終了を企て、見事本懐を遂げる。
大尉は、気つけの一杯をやり、その爆発音を聴いて、安らかな笑みを浮かべながら、永遠の眠りにつく。
今作が、反戦映画であるとの見立てがあるが、それを象徴する場面でもある。

戦争にお酒は必要不可欠な存在かも知れないが、多くのあらゆる犠牲者を出す戦争と言うものは、この世の中に不要な存在なはずなので、1日でも早く戦争の無い世界の実現を望む。


【総括】
極上のエンターテイメント映画に、大きな予算もついてスケールが更に拡大、ドラマ要素も描かれ作品全体に深みを感じる。

ラストの決闘シーンに代表される、表情・演技・音楽・映像と言う言葉以外の映画ならではの表現方法が、あらゆる場面に散りばめられていて、1秒たりとも見逃せない魅力溢れる作品。

今回、ドル3部作をスクリーンで鑑賞が出来て、大変に素晴らしい体験となった。
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