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ハハハのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ハハハ(2010年製作の映画)
4.1
 おじさんの写真店を継ごうと、カナダに移住することを決意した映画監督で大学教授のムンギョン(キム・サンギョン)は、チョング山で先輩の映画評論家チュンシク(ユ・ジュンサン)と久しぶりに出会い、マッコリを片手に語り合う。再会の場面はモノクロのストップ・モーションにより展開され、ふたりは酒の肴に、ひと夏の出会いについて語り始める。ムンギョンとチュンシクは互いに将来への不安を抱えながら、南の港町トンヨンに行ってきたばかりだった。ムンギョンはふぐ鍋食堂を営む母親に、カナダに行く決意を伝えにトンヨンに来た。だがムンギョンは昼間、暇にまかせて辿り着いた史跡の観光ガイド、ソンオク(ムン・ソリ)に一目惚れ。彼女には海兵隊出身の恋人チョンホ(キム・ガンウ)がいたがムンギョンは気にしない。ソンオクの後をつけたムンギョンは、彼女の家に入るチョンホが、自分がトンヨンに被ってきたものと同じ帽子を被っていることに気付く。一方その頃、チュンシクは妻子がありながら、愛人であるヨンジュ(イェ・ジウォン)と付き合い、アバンチュールのためにトンヨンヘ寄った。ついでに会った後輩のチョンホの紹介で、トンヨンでいちばんというふぐ鍋料理屋に入り、そこでジョンファという美しい女性を紹介される。

 モノクロのストップ・モーションで描かれる現在の場面とは対照的に、色彩を帯びた回想シーンの瑞々しさ。人生をリセットしようと思い立ったかつてのエリートは、トンヨンの地で運命の女ソンオクに出会う。彼女の後を付け、自宅を特定する様子は真っ先に『気まぐれな唇』でキム・サンギョンが演じたギョンスを想起させる。子供じみた思いを吐露する男を女は最初、気味悪がるが、緑の数珠を渡したあたりから徐々に距離を縮めることとなる。不倫の愛を精算出来ない男、最愛の女がいながら、新しい女との出会いに鼻の下を伸ばす男、人生の再スタートさせようともがく主人公の3人の男たちのレイヤーは互いに異なるものの、母親の営むふぐ鍋食堂を媒介に一つに束ねられる。30代の恋を繰り返し描いて来たこれまでの作品とは対照的に、今作では主人公に人生を教えた母親(ユン・ヨジョン)の陰影が示唆に富む。自分の息子に、父親の長所を聞かれた母親は、「あの人は女を追い回すことくらいしか能がなかった」と疲れ切った表情で言い放つ。男と女の心のひだを丹念に描く今作では、港町特有の急な雨の景色も印象に残る。チュンシクが飲む鬱の薬、緑の数珠と赤い帽子、赤い花と叩きつけられる草、市場で買って来た新鮮な西瓜、壁の崩れた506号室と6800ドル。2人で良いことだけを見ていこうと心に決めた男女の心は、真に気まぐれなその日の天気のようにただただすれ違う。
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