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鉄西区のnoelleのレビュー・感想・評価

鉄西区(2003年製作の映画)
5.0
約2.3回目の鑑賞。アテネフランセでの窒息しそうになりながらの1回目の鑑賞は忘れがたくて、もうこんな体験後生無いだろうと思った。そして確実に自分の世界の見方が変わったと感じた。
第3部の親子の話がほんとに素晴らしい。くず拾いで生計を立てている線路脇の親子の暮らし。去った母の写真。犬。帰ってきた父に泣きつく息子。をおんぶするラオジーおじさん。いつのまにかちゃっかり新しい奥さんゲットしてるラオジーおじさん。映る間ずっとチャーミングなラオジーおじさんは文革の時代を生き抜いてそこにいる。
あの燻んだ画面と息の詰まる様な距離。9時間の長丁場に足を組み替え水飲んだりしながら画面を眺めている自分、の眼前に映されているのは同じ世界の景色、確かにこの世界で起きていることなのだということに純粋に衝撃を受けた作品。そして歴史の畝りの中見落とされてしまうにはあまりに粘り強い個人の生というものを見せられて、それをほぼダイレクトにこちらに伝えてくれるワンビンのカメラに大袈裟でなく映画が世界に対して出来ることは確かにあると希望が持てた。そしてやっぱりリュミエール構図の列車の到来に嬉しくなった。

追記: 『青春』は新作ではあるけど映像自体は『苦い銭』の時期のもので、ワンビンはもう多分今後中国で撮れないんだよねという話をして切なくなった。今は国外追放の身でフランスにいて、最新のドキュメンタリーも中国から逃れてきたアーティストをパリで撮影したものとのこと。この息のかかる様な距離で撮られる生の中国の人々の姿はもう更新されることはないのか。今の中国の人がワンビンの映画を見たらどう思うのだろう。この映画の中でも列車が通るたびに古びていく景色はもうそこから更新されることのないタイムカプセルのようで、でもだからこそ資料価値としてもとんでもないものだと改めて思った。
歴史の大渦、爆風の中でも確かに生きた個人個人の生がしっかりと記憶に残る。身に覚えのあるこれは何の感覚だろうと思って記憶を辿ったらマルケスの百年の孤独だった。
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