TAK44マグナム

ラスト・デイズのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ラスト・デイズ(2013年製作の映画)
3.6
スペイン発のパニックスリラー。

原因不明の広場恐怖症が全世界に蔓延、人々は建物の外へ出られなくなってしまい、社会が崩壊してしまいます。
そんな中、恋人と離れ離れになってしまっていたマルクは上司のエンリケと協力しあい、下水道をつたって恋人を探そうとします。
しかし、地下道やアパート、教会、ショッピングモール・・・と、行く先々には危険も伴っていたのでした。
・・・といったお話です。

全世界引きこもり!という斬新な設定が光るパニック映画です。
外へ出ようとすると発作が起きて死んじゃいますよ!
徐々に病気が蔓延してゆく様子も恐ろしいし、社会崩壊後の描写も、恐らく予算規模もそれほど多くないだろうと思われる割には、安っぽさも控えめでかなりしっかりとした出来でした。
CGはそこそこですが、無人の街並みや、荒んでバイオレンスジャックの地獄街編みたいになっている地下道やショッピングモールの雰囲気は嫌いじゃないです。住んでみたくはないけど。

ちょっとご都合主義すぎる部分も確かにあるんですが、最初は渋々協力しあっていたマルクとエンリケが様々な体験を共有するうちに友情で結ばれていく過程も自然だし、ところどころに観客を退屈させないようにヴァイオレンスシーンを挿入しているのも正解だと思います。
こういった映画の場合、得てして淡々とした感じに終始してしまうものも多いのですが、本作は下水道を歩き回ってばかりいる割にはテンポも悪くないし、ちゃんと明るい場面転換も用意されているし、驚くことに立ち寄った教会では○○に遭遇して戦う場面まであったりするので、眠い時に観たのに最後まで瞼が落ちることはありませんでした(苦笑)。

オチは、ちょっとそりゃ無理があるというか、けっこう強引に話をまとめていますが、後味は良いのでこれはこれでアリかもしれません。

マルクは、仕事のこともあって子供を作ることに対して消極的という設定なんですが、現代はただ子供を作ればいいっていう時代ではなく、育て上げるためには環境がしっかりとしていないとならない側面があるかと思います。
マルクは果たして家族を守っていけるのか、自信がないのです。自信なんてなくても、多くの人はとにかく頑張っているんですけどね。
でも、同じ男としてマルクの気持ちも分からんでもありません。女性の気持ちはわからないところもあるのですが(汗)、きっとそういう男の一面を見てしまうと頼りなくて幻滅してしまうかもしれませんね。
でも、たぶん、多くの男性は、若いマルクに共感できるのではないでしょうか。
そんなマルクも、クライマックスでは恐怖に打ち勝とうとします。この場面では、マルクの中に巣くう恐怖心と、広場恐怖症による恐怖心が実は同じようなもので、人間は恐怖に打ち勝って前に進まなければならないというメッセージが込められているのではないかと感じました。
誰でも初めて何かにチャレンジする時は怖かったりするものですよね。でも、扉を開いて外へ出てゆかなければ何も始まりません。
マルクは、扉の先に希望を見つけます。
心の強さだけが、希望をつかむための武器なのでした。

ちなみに、広場恐怖症というのは、この映画における疾患とは微妙に違いますが、実際に存在する病気です。
パニック障害の一種ともとられています。
個人的に、高速道路を運転できない(減速してはいけないという強迫観念や道路そのものの閉そく感から、どうしていいのか分からなくなってしまう)といった、パニック障害とまではいかないまでも似たような経験があるので多少は理解できるつもりですが、なかなかすぐに他人に理解してもらえる症状ではないので、本作の「広場恐怖症が誰にも分らないまま拡がってしまう」という初期の雰囲気は非常にリアルだな、と思いました。

巷に氾濫するパンデミック物のひとつではありますが、国家レベルみたいに大仰しくかまえていないのでスケール感はないものの、一風変わった雰囲気を味わいたいならオススメしておきます。


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