Laura

インセプションのLauraのレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
3.5
20世紀までの研究である程度明らかになってきた明晰夢とか臨死体験の理屈が、おそらくかなり忠実に映像化されているのだと思う。ただそれがストーリー化されると複雑なルールの世界になってしまい、物理学や量子力学の専門家でもない限り、観客はそのルールを理解することに脳の容量を割くことになる。結果、作品としての感想を問われたときに答えづらいのだろう。それでもテネットよりは全然易しい。
ここからインターステラー、テネットにかけてノーランが向き合っている課題は、人間の未知なる領域をどう映画というエンタメに落とし込むかということで、オッペンハイマーではそこにテクノロジーの進歩と科学者の倫理観という問題が大きく関わってくる。

もともと映画は時間や夢というテーマと親和性がある。映画はフィルムに絵を写しとる時間芸術だし、夢や無意識の世界を表現しようとしてきたシュルレアリスムの作家たちの試みは誰もが知るところだ。専ら前衛的なテーマを扱うノーランは一見、そういうシネフィル的な感傷とは一線を引いているようだが、一方でディカプリオの助手を務める女学生の名前がアリアドネだったりーーもはや誰もが知るところで書くのも恥ずかしいが、古代神話のアリアドネーは英雄テセウスをクレタ島の迷宮で手引きした話で知られる。つまり役どころにぴったりーー西洋の古典的なバックグラウンドもベタながら押さえていくところは、極めて意識的な映画製作者だと思わされる。
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