イチロヲ

音楽のイチロヲのレビュー・感想・評価

音楽(1972年製作の映画)
4.0
女性患者(黒沢のり子)の不感症を治療する精神科医(細川俊之)が、彼女の深層心理に潜んでいる異常性愛を見抜いていく。三島由紀夫の同名小説を映画化している、エロティック・ドラマ。筆者は原作を読了済み。

「人はなぜ嘘をつくのか?」「人はなぜ言い間違いをするのか?」。その「なぜ」の部分を、性倒錯者の視点から追求していく。原作は物語の流れに合わせて学説を引用していくスタイルだが、この映画版ではさすがに削除されている。

ヒロインは抑圧された観念を表出させないために、精神科医のメソッドに対して、虚実入り混じった状態での抵抗をおこなう。しかし、彼女の妄言には意味があることを精神科医は見抜いているため、腹の探り合いに拍車が掛けられていく。

原作の一人称語りや手紙のやり取りがカットされているため、論理の飛躍が微量に感じられるけれども、「性衝動の深淵」というインナー・ワールドが、ものの見事に具象化されている。増村保造と三島文学の化学合成を、じっくりと堪能することが可能。
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