幌舞さば緒

マイケル・ムーアの世界侵略のススメの幌舞さば緒のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

資本主義社会で平民側に起こる問題事をユーモアと優しさでぶった斬る〝お菓子詰め合わせ〟みたいな映画。


台詞メモ

★国防総省の統合参謀本部に呼ばれた。それも4部門。陸軍、空軍、海軍、そして海兵隊。彼らから相談された。〝ほとほと困ってる〟第二次大戦後、勝てないのだ。負け戦を見直したそうだ。1つずつじっくり丁寧に。予算の無駄遣いと過激派の産出を悔やんだ。戦争はさらなる戦争を生んだだけ。石油も得られなかった。情けないことに頻繁に飛行禁止空域を侵略してた。アドバイスを求められた。少し考えてこう答えた。〝部隊を一時帰休させ、きちんと休養をとらせろ〟と。〝しばらく軍事侵攻を中止せよ。軍事顧問の派遣も、ドローンの奇襲攻撃も。海兵隊の代わりに私を送り込め。名前の発音ができる白人の国を侵略する。必要なものをゲットし、このアメリカ合衆国へ持ち帰ろう。軍隊では解決できない問題があるから〟

★「政府には国民を救う責任があるはず」「我が国を脅かすテロリストは必ず捕まえます。どこに隠れようとも」「敵は抜け目ないが我々もだ。攻撃方法は日々工夫してる」「必ずテロリストに裁きを下す」「法治国家は国民の品行を統治する」「我が国の象徴は〝自由〟だ」「テロ支援者たちの施設やインフラは破壊する」「世界中の子は救えないが多くは救える」

「我々は脅威を打破し、暴君を監獄へ送った」「無実の罪で42年服役した」「20〜50代の大半を刑務所で過ごした」

「武力侵略を見過ごし始めたら自由の理念が失われる」「国民を守るため軍事力の行使に躊躇はない」「撃たないで」

★イタリア人はいつも〝xxxの直後〟に見える。ジョニーとクリスティーナは労働者階級の夫婦。ジョニーは警官、クリスティーナは服のバイヤー。最初に出会った敵だ。家へ案内され、延々バカンス自慢をされた。「大抵冬の間に1週間と6月に1週間ね。結婚記念日だから。8月は3週間。イタリアでは8月は閑散期なの」「有給休暇?」「もちろん。だって毎年30〜35日は有給がある」「週5日勤務として7週間分?」「祝日もある、12日。結婚するとさらに15日間もらえる」有給が8週間も…「イタリアでは12月に上乗せ給与が。13月分よ。12か月経つと13か月の給与が出るの。丸1か月分よ」普段の給料は生活費で消えるからバカンス用の費用と考えるらしい。資金がなきゃ楽しめないからね。「休暇を使いきれなかったら前年分を翌年に繰り越せるの。無駄にならない」

★「有給休暇に抵抗は?」「全然ないわ」「経営者の喜びだし従業員の正当な権利だ」「彼らも楽しむべきよ」「休暇を取ることでストレス解消になるし、発散して職場に戻れる」「爽快さ。ストレスが原因の病気はたくさんある」「夏はビーチで楽しむもの。太陽と海は体にいいの」イタリア人の平均寿命はトップレベル。アメリカより4年も長い。

ラルディーニ社のランチタイムだ。彼らの行き先は自販機や弁当屋ではない。毎日家へ帰るのだ。ゆっくり2時間、昼食を楽しむために。

「コンベヤーがほとんど動いてない」「低速で」

「その見返りは受け取ってるよ。よく働いてくれて会社の利益と社員の福利厚生は両立できる」

「金で解決か、争いか、交渉か。いつも同じだ。降っては来ない。力を合わせて獲得する」

「生活保護(ウェルフェア)的な…」「社会福祉(ソーシャル・ウェルフェア)的?ウェルフェアは保守的なアメリカ人が嫌う言葉だ」「この国では違う。いい言葉だ」「社員のため?」「税金は増える」「嫌なの?」「金を払った見返りに何かを得られるならいいさ」

★「アメリカ式の経営ならもっと儲けて金持ちになれる」「金持ちになる意味は?何かメリットがある?社員が笑顔で働いてるのが一番よ。心の交流が持てるわ。〝お母さんの具合は?〟とか、いい関係が築けてる」

「バカンスへ行ったらその間は無給?」「強い組合があれば2週間の有給を取れるかも」「1年で?」「上出来だよ」「2週間で上出来?」「3週間なら最高。職種によるが。4週間の有給は前代未聞だ」

「アメリカの有給休暇は0だ」「ありえない。バカげてるわ。バカンス以外に出産して母親になる場合もある。長期間かかる育児をどうしろと言うの?」

★流れが見えてきたぞ。まず8週間のバカンスでエッチして…「産休は5か月間もらえるわ」「それも有給?」「もちろんよ」「〝もちろん〟って…」「この国じゃ普通だもの」「父親は?」「両親のどちらかが取れるはず」「母親は休まなきゃ」「当然よ」「生後数ヶ月は一緒に過ごさなきゃ。女性にとって最高に貴重な時だもの。世界共通の感覚だと思うわ」実際、全世界が産休を有給にしている。貧しすぎる2か国を除いて。パプアニューギニアと、この国(アメリカ)だ。イタリアは休暇や昼休みが長いのに最も生産性の高い15か国に入ってる。「アメリカの方が長く働いてるのに」「君らは休暇不足だ」「セックスもね」「そうかも」「君らはセックスが多く、幸福度が高いから生産性も上がる」「その通り、牛と同じよ」「人生は一度だけ。二度と戻らない。目一杯楽しまないと」

「私はフランス人だ」「フランス人?」「ウイ」「俺たちは違う。あんたはアメリカにいるんだ。世界一の国だ」「ジョージ・ブッシュとシリアル以外に世界に誇れるものが?」「中華料理」「中国発だ」「ピザ」「イタリア発」「チミチャンガ」「メキシコ」「そっちは何がある?」「民主主義と実存主義を発明した。xxxもね」「完敗だな」

★「なぜ市長室が学校給食の内容を気にするんです?」「食事がどれだけ大切か子供たちに学んでもらうために」昼休みは短時間に食事を詰め込むものじゃない。授業の一環なのだ。1時間かけて食事の正しいマナーを学び、健康的な食事と給仕を楽しむ。

「これがアメリカの給食だ」「パン?」「そうだね」「何の料理?」「キモいソース」「食欲そそる?」「そそらない。全然」「中身は分からない」「怖いよ」…「食べ物じゃないね」「確かに犯罪現場の写真に見えるかも」「子供が気の毒だ」フランス人の同情はキツい。驚いたのは1食あたりの給食の予算がアメリカの給食より低いこと。それも裕福な地域でなくても。

言うまでもないが日替わりのチーズも選べる。この国は信じ難いことに医療はタダ。保育園もほぼ無料。しかも給食は王様の食卓レベル。

フランスの給与明細には税金の使途が記載されてる。アメリカのは社会保障税と医療税以外は記載なし。まさか所得税の60%が軍事に使われるとは。フランス人は争いより恋を好む。

アメリカの10代の妊娠率はフランスの2倍、ドイツの6倍、スイスの7倍。教育は重要だ。彼らの高校の教科書「楽しいxxx」を持ち、給食を弁当箱に詰めた。

「宿題を廃止した?」「子供らしく日々を楽しまないと」

★「宿題という概念自体がずでに時代遅れだと思うから…」「時代遅れ?」「廃止すれば生徒たちは放課後にもっと色んなことが出来る」「例えば?」「友達と遊んだり、家族と過ごしたり、スポーツや音楽や読書を楽しんだり」

★「低学年の授業時間は?」「月曜は3時間。火曜は4時間。合計で20時間よ」「驚いたな。昼休みも入れて?」「そう」「そんな短時間で何が出来る?」「脳を休ませないと。ずっと酷使してると学べなくなる。それじゃ意味がないわ」フィンランドの学校は西欧諸国で最も授業が少ない。授業を減らして学力が伸びた。

★「アメリカに留学を?」「帰国してホッとしたことは?」「選択式のテストがないこと」「こっちにはないの?」「あっても少しだ。アメリカじゃ全部…」「選択肢から選ばずどうやって答える?」「自分で書く。正確に知らないと」何度も言われたのは統一テストをやめるべきだということ。「統一テストを廃止」「全国テスト」「テストで点を取る訓練は教育ではない」「落第の仕方は教えてる。不合格校は認可校になって誰かが大儲けする」「でも学校って幸せになる方法を見つける場所じゃない?」「授業の3分の1がテスト対策に費やされているらしく試験科目でない音楽や美術の授業は消滅…」「美術が?」「多くの学校でね。試験科目でない公民も授業から外されてる」「信じられん」「詩の授業も」「外された?なぜ?」「無駄だから。大人になった時、詩は役に立たない。詩で就職は出来ない」「生徒が自分の脳を活用できるよう必要なことは全部教えるわ。体育も美術も音楽も含めて脳を活性化するものはすべて」「調理したり歌ったり、美術や自然探索もみんな必要よ。子供でいられる期間は短いんだもの」

★「統一テストがないならどの学校がいいかどうやって測る?」「近隣の学校が一番よ。町の中心に位置する学校と何も変わらないわ。フィンランドの学校は全部同じレベルよ」「引っ越してもどの学校がいいか迷うことはないわ」「学校選びの必要がない」「学校に違いはない。みんな同じよ」学校を設立し授業料を取るのは違法だ。だから私立校はほとんど存在しない。つまり裕福な親は公立校がよくないと困るわけだ。裕福な子も公立に行き、様々な境遇の子と一緒に育つ。裕福な大人になっても他人の境遇を尊重できる人に。

★「アメリカでは教育はビジネスよ。ここでは生徒優先。遊具を設置する時も建築家に子供と話をさせる」

★「アメリカで教育実習をした時、近隣の学校の教え子に〝将来、何にでもなれる〟と言ってた。本当はウソなのに。でもフィンランドでは子供の将来を見据え、希望に沿った内容を教えてる。〝好きなものになれる〟って言葉にウソを感じないの。もう夢の実現に向けて歩み出しているから」

「問題意識を持って自分で考えるよう教えてる」「自分も他人も尊重できて幸せに生きる方法を教える」「幸せに生きる方法?教科は何を?」「数学だ」「数学教師の一番の願いが生徒が卒業後に幸せに生きること?数学教師で?」「はい」

「子供たちはいつ遊んで、友達と交流し、人として成長できるの?学校以外の場所にも人生は山ほどある」「遊ばせたい?」「子供は遊ばせたいわ」これぞ校長だと思った。

アルプスの東の斜面奥に位置するラプンツェルと眠り姫の故郷、スロベニア

「なぜこの国は税金で外国人の学費を?」「教育は公共の利益と見なされてるの。外国人学生から学費を取り始めたら他からも取ることに。1人でも払えば〝タダで通える大学〟ではなくなる。教育が公益でなくなる」スロベニア政府は学費を取り始めることを最近発表。国中に衝撃を与え学生は反発した。「法律に抗議する運動を起こした」「9か月間、文部大臣や大学幹部と話し合った。方の施行を引き延ばし政権交代まで粘った」「待てよ、50人弱の組織で政府を突っついて総選挙に?」「そうです」「スゴい話だ」

★大学の学費をタダにして若者に借金を背負わせない着想はぜひともアメリカへ持ち帰らねば。スロベニア大統領に面会を申し入れ、意外にも受け入れられた。大統領は私との面会でクルーの同席を断った。〝降伏の現場〟を見られたくないのだ。45分後…「怒るかな?無料教育制度を真似したら」「教育改革を?」「そのつもりです。会えてよかった。感謝します」楽勝だったろ?成功!犠牲者もPTSDもチェイニーも必要なし。独りで石油よりいいものを獲得。

★「窓があるから工場じゃない」「窓があるから?」「工場にはない」「工場にも窓はある。光がないと」「太陽は不要だろ」「健康だからいい鉛筆が出来る。病気の社員がいたら問題が起きる」

「2時に仕事が終わり?」「犬の散歩と恋人とお茶」「そのあとは?何も。休む」「友達との交流。人生を楽しむ。いい天気だしカフェに座って道行く人を眺めるわ」

ドイツ国民皆保健制度ではストレス過多のドイツ人は処方箋をもらえ、無料でスパに3週間滞在できる。

★「なぜ国がそこまで?」「結局安上がりになるから。深刻な病気を防ぐため事前にお金をかけるの」

★「みんなが隣人をいたわれば生きやすくなると思う」「常識でしょ」

★「企業には監査役会の設置義務がある。さらに労働者側の代表が半数以上と指定」サクラなどではなく本物の労働者でなくては。監査役会に労働者がいることで会社が法を破れば社員が会社を告発する。だから会社も話を聞くのだ。「社員に要望を聞いてる」「社員を管理する側なのになぜお伺いを?」「社員が会社を監視し提案も」「提案を呑んだことは?」「もちろん、いつも呑んでる」「騒がれないため?」「いい発想だから」「どんな?」「現場の声だ」「ウソだろ」「本心だ」「撮影用?」「社員は賢くて助かってる。成功の鍵だ」「社員の意見を聞くほど会社に貢献してくれる」最近問題になったのは〝自由時間中の社員をどのように扱うか〟ドイツでは休暇中の社員に接触するのは違法だ。多くの企業が就業後の社員にメールを送らない規則を採用。メルセデス社は上司が自宅にいる部下へメールできないシステム。「社員はメールに答える義務はないし、上司は週末社員に介入してはならない。休暇中や終業後の社員の生活に立ち入るのも禁止だ」

ドイツでは毎日どの学校でも子供たちに先祖のしたことを教える。ごまかさず、なかったことにもしない。〝生まれる前のこと〟と片付けない。〝自分には関係ない〟とか〝自分のせいじゃない〟とか。ドイツ人として自分の罪のように刻まれた思いは常に贖罪を探してる。償いを考え罪を忘れない。忘れようがない。外へ出れば歩道の石畳に。かつてそこに住み収容所で殺されたユダヤ人の家族の名が刻まれている。街角に掲げられてるのは昔の〝ユダヤ人禁止〟の看板。若者にドイツの象徴がベートーベンとバッハだけでなく大虐殺でもあると気付かせるために。

★我々は本当に変わった?2015年まで我が国には奴隷博物館がなかった。なぜ罪から目をそらす?回復への第1歩、人として国として向上する最初の1歩は自分が誰なのか正直に言えるようになること。私はアメリカ人、最高の国に住んでる。大虐殺の中で生まれ、奴隷を犠牲に立てた国。ドイツから盗むとしたらこれだ。自分の邪悪な側面を認め罪の償いをすれば自分の高みへと解き放ち、人にもよくできる。ドイツ人にできるなら我々にもできる。

★「この15年間ドラッグ使用による逮捕はゼロ。ドラッグは違法じゃないから実刑判決はありえない」「大麻を25本持ってたら〝使用者〟?」「そうなるね」「麻薬絡みの犯罪は増加した?」「使用者が減れば麻薬使用によるトラブルも減る」「ドラッグを非犯罪化して逮捕者を減らしたらドラッグ使用率が下がったと?」「麻薬使用者と聞くと少数の過激な奴らを連想する。90%の人は薬物を使っていてもトラブルを起こさないのに。彼らが傷つけるとしたら…」「自分自身ってこと?」「そう」「家族に迷惑はかけるかも」「SNSも同じだ。違法にするか?」「別の見方をすると…ドラッグ使用者を特定することで犯罪者として排除できる」「効くのか?」「実際のところ…効いてる」

★白人社会アメリカは意図せずして奴隷制を復活させた。主人は知っていた。金持ちになるにはタダで使える労働力だと。現代の主人は刑務所こそモノ作りに最適と気付いた。時給23セントで作れる。今食べてるハンバーガーも飛行機の予約も、この映画の海賊版を見るためのソフトも宿題入りのリュックも、オシャレなブランドの正体も分かった。21世紀の奴隷を使う企業の1つだ。純粋なつイカれた天才的所業だ。

★「麻薬だけ非犯罪化してもうまくいかない。他のも取り入れないと」

「尊厳を守るのが社会の柱です。全法律はその原則に従ってこそ成り立つ」「警官の訓練中にもその原理を感じてる。基本原理とは尊厳への敬意なのです。常に」

「死刑制度が存在する限り人の尊厳が守られることはないんです。尊厳は何よりも大切なもの。死刑は尊厳を冒します」「返す言葉もない」「道は遠いです」

「その格好で囚人?」「ここが宿舎、これがリビングルーム。いい眺めだろ?俺の部屋だ。まあまあだろ?」「これが独房ってわけ?夜は施錠される?」「鍵を持ってるのは俺だけだ」

「TVにバスケ、自転車、ランニング、水泳、釣り」「反対側へ泳いで行けるのか?」「それは禁止。向こうからこっちへ泳ぐのはOK」「脱走と思われる」

「刑務所長、これのどこが罰なの?」「主旨としては…自由を制限することになってる。それが唯一の罰だから。家族や友達と離れて。ただ我々と話すことで温かさを思い出してほしい」「アメリカ人には理解不能だ。不思議でならないよ。なぜ開放型の刑務所なのか」「なべ理解不能なんだ?アメリカ発なのに。君の国の建国者が憲法に入れた。〝残酷な罰は与えない〟と君らが書いた」

「もっと親愛の情を示してお互いに支え合うんだ。それがあるべき生き方だ」「親愛の情や優しさを示さないとね」「温かさを分け合うのがとても大事なんだ」アメリカは世界一再犯率が高い。受刑者の80%が5年以内に再逮捕される。ノルウェーは世界最少の20%だ。

「絵を描いてて美術教室の受講も」「哲学教室も?」「秋にテストがある。地域プログラムをやりたい。いずれは政治の勉強も」悪くない。刑務所に入ったあと政治家になる。ポルトガルと同様ノルウェーでも受刑者も投票できる。彼らの票を求めて候補者が選挙討論に来る。所内からTV中継も。忘れるとこだったがここは厳重警備刑務所なのだ。ここでも受刑者が鍵を持ってる。彼は殺人犯だというのにゲーム機も持ってる。図書館はアメリカの高校に引けを取らない。レコード・レーベルと録音スタジオも。「音楽は創造力を引き出します。受刑者を見て言えるのは、色んな意味で才能に溢れてる」洗濯機もある。食料品室も。普通にナイフ類も持ってる。

「拳銃は?」「必要ないわ」「銃は不要?」「話せばいいのよ」「口が武器ってこと?」

「仕事に関してはすごく優秀だよ。看守として気を配り俺たちを守ってくれる。アメリカの看守は囚人をブチのめすんだろ?」

彼はトロンド・ブラッドマン。配管工員だ。2011年7月22日、17歳の息子を失った。54人の少年少女と共に殺された。ノルウェーの島のサマーキャンプで。犯人はネオナチで人種差別主義者。子供たちを殺す前にオスロの政府系ビルを爆破した。「息子が島から電話してきて〝パパ、大変だ。誰かが銃を乱射してる。どうしよう?〟驚いてこう言った。〝他の子たちも一緒なら隠れなさい。離れずに助け合って。気を付けて〟と。電話は5時20分、死んだのは6時過ぎ」「〝息子が銃を持ってたら〟と思う?」「泳げたらよかったのにと思う。泳いだ子は助かったからね。ノルウェーに死刑はない。大量殺人者も他の容疑者と同じ扱いだ。司法制度が裁き判決が下る」「公正さを?」「望むよ」「心から?犯人を殺したいとは?チャンスがあったら。可能でも?息子の仇だ」「復讐は望まない。そうだとしても犯人と同じレベルに下りてこう言えと?〝お前を殺す権利がある〟そんな権利ないさ」「相手がクズでも?」「たとえ相手が…最低のクズでも私に殺す権利はない」「凶悪なテロ事件後も制度は変わってない。〝反テロ法〟運動はしない?」「自由を奪う気もない」「警官を武装させたいがそれすら煩わしいのかな」「9.11後のような反応は?」「ちょっと言い方を変えよう。この件では首相から王国ご一家までノルウェー中の当局者もメディアもこう言った。〝ノルウェーを大事にしよう。お互いを大事にしてきたように〟力を合わせて心を開き、開かれた社会で民主主義と言論の自由を高める。収監しても物事はよくならない。憎しみを増すだけ」

ノルウェーで最長の実刑判決は21年。殺人事件発生率は世界一の低さを誇る。

「民意に従った辞任は見事でした。宗教指導者の意見もあったはずなのに」「実際、難しい決断だった。道徳的選択だよ。権力はすべてではなく、祈りの方が大切だから。対立や流血を避けることもね」「アメリカではイスラム教徒にそういう印象はなかった。女性は頭を隠す規則?」「それは個人の考えによる。個人的に妻にはそうさせてるが国が口を出すことではない。女性の服装や生き方に対してもね。イスラムの解釈は人それぞれに異なる。皆違うのだから」「同性愛への差別は?」「家で何をしようと個人の自由だ。国は関係ない。たとえ…宗教指導者が何と言おうと政府は公務にだけ意識を集中すべきなのだ」

★「アメリカが真似るべきことは?」「アメリカ人は恵まれてるわ。世界一パワフルな国に属してる。でも世界一の驕りが好奇心を阻んでるかもしれない。私はアメリカのこと色々知ってる。音楽も知ってるわ。70年代から最新曲までよく踊ってる。英語も精一杯話してる。ヘンリー・ミラーやケルアックも知ってる。アメリカ製の服や料理も楽しむ。でも私の国の文化をアメリカ人は知ってる?エストニアやジンバブエの文化を?アメリカ人はリアリティ番組を長時間見ていると読んだわ。なぜそんなことに時間を?世界一パワフルな武器を発明したのにインターネットを活用しなきゃ。チェックして、読んで、見て。そしてここを訪ねて。来る価値があるわ。北アフリカにある小さな国、チュニジアよ。この国にも関心を持ってもらう価値はある。今と同じように自分たちが最高で何でも知ってると思ってたら…何も変わらない」

「長い目で歴史を見ると何千年もの間、男性だけの世界だった。男性が管理し、男性が支配し、男性が決断し仕切る。政治的、経済的、社会的、個人的に。75年の女性ストライキや80年の大統領当選以来、何か国が女性大統領を?議会選出を入れずに何十人もだ」「父親はみんな娘が賢いことを知ってる。兄弟も皆、姉妹が賢いことを知ってる。アイスランドが最初の例で光栄よ。そのことで国中の女性と少女にいい影響を与えた」

「アイスランドは女性が生きるには最高の国よ」「色々変化があったわ。この…15〜25年の間に」「男性と平等のチャンスが」「肌で感じてる?」「そう信じて成長した。疑いもしないわ」「採用の男女割当も」「役員会に?」「少なくとも40%は女性が占めるか、40%の男性か。若い男性にも機会を与えるいい法律だわ」「女性は最大でも60%止まり?」「そう、その通り」

「調査では〝役員会に女性が3人いたら文化が変わる〟と。1人や2人じゃダメ。1人はお飾り、2人は少数派。3人でグループの力学が変わる。対話の様子も議題の内容も。貸借対照表より違いが明白。女性を増やせば出資者にもチェックが入る。〝道徳倫理の羅針盤〟よ。すごく有益なことだわ。それなしで長期間生き残るのは難しいと思う。

★ハッキリしたのは、女性が本当に対等な力を持っていると国民が幸せに見える。アイスランドの女性はさらに高レベルだ。役員会や議会で女性が半数を占めていても疑問が残るのだ。男性がまだ握ってるものは?

★「世界的不況の中、アイスランドは最悪の事態だ。3大銀行が破綻しました。唯一の黒字銀行は女性経営です。金融業界は性別で違いが?リポートです」「アイスランドの経済崩壊です。数週間で85%の資金が無になりました。顧客の金を失わなかった金融機関はオイズル・キャピタルのみ。2人の女性創設者が買うのは〝分かるものだけ〟取引所にもっと女性がいたら状況が違ったかも」「リスクを取り実績や報酬に固執するのは男性よ」「証券取引の損害は男性ホルモンが原因との新事実が。男性ホルモン値が高いと自信過剰になり大損することに」「女性は全体の利益を。男性は自分の利益を考える」「世界中で議論された疑問。もし〝リーマン・シスターズ〟だったら?」「女性なら危機を回避できた?」「みんな実体のないものを追いすぎてた。成長していたとは言え、成功する戦略だったのか疑問よ。MBAでも聞いたことないもの。巨大利益を目指してたのか、巨根コンテストだったのか」

★「一度子供の罪を見逃せばまた罪を犯すわ」

「アメリカ人は正しいことをする能力や知識がある。以前、金融スキャンダルが起きた時もきちんと立件を」「したとも」「その時の担当検事がアドバイスをくれた。単刀直入に色々教えてもらったよ」

彼らは銀行を救済せず銀行家を起訴した。金融上の決断を女性に委ね、経済を完全に回復させた。前より好調なまでに。

★「なぜアメリカはこうなんだろう?なぜ君たちと違う?」「〝アメリカン・ドリーム〟の言葉の通りチャンスの国よね。誰でも望みを実現できるって。でも現実にはそうじゃない。すべての子に平等に教育と医療の機会を与えて。共産主義じゃなく、いい社会として」「個人プレイヤーよね。〝自分と家族は大事だけど他は知らない〟世界も家族のようなもの。お互いに支え合わなくては」「君たちの考え方は〝私たち〟ベースで、我々の考え方は〝私〟ベースだ」「女の力だわ。女の本能よ」「確信してるの。女性の力を心から信じてる。女性こ器や知性をね。世界を救えるのは女性しかいない。武力じゃなく言葉を使って。平和を願って社会を動かす。人間性を守り、子供を守りたい。世界中の男性が女性の視点に開眼し、男性の視点を合わせたらよりよい世界に」

★「たとえお金をもらってもアメリカには住まない。社会のあり方、国民の扱い方…隣人への接し方を見ると住みたいとは思わない。ご免だわ。同胞であるはずのアメリカ人を大切にしてない。よく平気でいられると不思議でならないの。たくさんの人たちが食事もなく、病院にも行けず、教育も受けられずにいる。なのになぜ平気なのか理解不能よ」「平気じゃない」「ならよかった。平気でいいはずないわ」

★「冷戦を見て育った俺たちには壁の崩壊なんてありえなかった。永遠に立つ障壁だと思ってた。だが30年ももたず一夜で崩れた。同じ頃、マンデラが釈放され南アの大統領に。この2つでこう思ったよ。〝世の中、何でもアリだな〟と」「解決は難しいと言うけど答えはシンプルだ。ハンマーでブチ壊せばいい」「実際そうだったな。ハンマーとノミでダウン。3か月経てば公認だ。冷戦中、この壁は永遠と思われた。なのに泡と消えた。あっという間に。3年前、同性婚はどの州も禁止だった。今やすっかり合憲だ。変わり身の早さにビックリしたよ。おかげで妙に楽観的な考えが身に着いた。不可能なことに思えてもこの壁が何よりの証明だ。最初は鉄壁に思えても穴が開いて壁が崩れ去る。スゴいよ」

★侵略の戦利品を振り返るとアメリカ以外ばかりに〝アメリカン・ドリーム〟を見るようだ。でもロッドに言われた。我々の世代はほぼタダで大学を出た。フィンランドの教育法はアメリカ生まれだと言ってた。メーデーはモスクワじゃなくシカゴで1886年にスタート、8時間勤務やバカンスが生まれた。労働組合も。男女平等運動はアイスランドのずっと前に始めた。ノルウェー刑務所の〝残酷な罰なし〟もアメリカ発だ。ミシガンが英語圏の自治体として初めて死刑を廃止。アイスランドの検察官は銀行家たちを起訴するのにアメリカの事例を参考にし助言まで仰いだ。ヨーロッパ発でも新発想でもない。我々のアイデアだった。アイデアを盗みに侵略に行く必要はなかった。国内にあったのだ。侵略しなくても落とし物係に聞けばよかった。それが答えなのかも。「助けてください」「もう助けは必要ないわ。あなたには力がある」「私に?」そうとも。我々にもその力がある。カンザスへ行く人?
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