デニロ

野良犬のデニロのレビュー・感想・評価

野良犬(1973年製作の映画)
3.0
1973年製作公開。原作は1949年公開の菊島隆三、黒澤明による『野良犬』。脚本森崎東、一色爆。監督森崎東。高校時代、田舎で観ている。伴映は、『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』『男はつらいよ フーテンの寅』だった。あ、森崎東監督か。本作は面白くなかったけれど、渥美清の寅次郎恋情告白シーンに身をつまされつつ左卜全と一緒に笑ってしまった記憶がある。菊島、黒沢版を観たのは1975年の春。こちらは凄いと思った。

高校生に何が面白くなかったのかはもはや忘却の彼方だが、いま観ても渡哲也が愚かすぎる。当時のわたしはもっと口汚く罵っていたことだろうと思う。それから芦田伸介が刑事というのもどうだったろう。伍代財閥の邪悪な支配人としてリアルタイムで観ていたのでそちらの印象が邪魔していたかもしれない。いや、本作での彼の扮装は邪悪な支配人そのものだ。

沖縄を日本の原罪と捉えていた森崎東のパッションがあまりにも本作に注ぎ込まれていて、高校生のわたしには全く理解できなかったところだと思う。脚本もその思い入れが爆発していてもはやもつれにもつれる。沖縄人のこころとのリンクなしに渡哲也がギラギラ目を剥いて奪われた拳銃を追い求める。彼らの共同正犯の意味を理解できぬままに。その意味こそが森崎東の思う日本の原罪なのだが、脚本が熱すぎて演出された作品は脚元が覚束ぬ。復員兵と沖縄人、童謡ちょうちょうと沖縄民謡等が原作を意識していると思われるけれど、むしろ、冒頭で貧弱な野良犬が沖縄の青年たちの前を歩いていて、ひとりの青年がひょいとその犬を抱いてガードレールの外に放る。うわっ、とんでもない奴だと思った次のシーンで、その犬はむしろ車両の通らぬ安全な歩道に置かれたのだと知るところに本作と原作の差異を感じたい。

国立映画アーカイブ「逝ける映画人を偲んで2019-2020」にて
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