垂直落下式サミング

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.1
「狩りはするよ。動物以外の獣だがね。」
イケオジ狩人ですねバウアー検事長!葉巻でゴホゴホ。度の強いでっかいメガネと広いおでこが光る。国にとって誇れるものは、木や森や建物や歴史や偉人の功績などではなくて、我々ひとりひとりの善行なんだ。その精神性がいちいちかっこいい。
ナチスの最重要戦犯アドルフ・アイヒマン逮捕の影の功労者であるフリッツ・バウアー検事長の執念と苦悩を描いているドイツ映画。なんとなくナチスドイツをあつかった作品を、いくつか続けて観てみたなかのひとつ。
彼のもとに、アイヒマンがアルゼンチンに潜伏しているという重大な情報を記した手紙が届く。助手のカールとともに証拠固めと潜伏場所の特定に奔走するが、ドイツ国内に巣食うナチス残党による妨害や圧力にさらされ孤立無援の苦闘を強いられるも、自らが国家反逆罪に問われかねないような掟破りの奇策に打って出る。その勇気が、世紀の逮捕劇へと実を結ぶことになる。さあ!アイヒマン野郎をドイツの法廷に引っ張り出せ!
いきなりバスタブで溺れるところからはじまるから、ドキドキしてしまった。フリッツ・バウアー検事長は自宅の浴槽で溺死体となって発見された。作中では、溺れかけのオッサンが復活して大仕事をこなすのだから、映画が言いたいこともおのずとわかってくる。正義は不滅なりってわけです。
「ナチスがもっとも畏れた男」は、戦後になってからの話なのがもう言わんこっちゃないよな。1950年になっても、国内外でスパイ活動や要人を失脚させる裏工作とか多少はできるくらいには、まだまだ残党たちが暗躍していることに驚いた。やっぱり戦争に負けたからって糞な思想が根絶されるわけでもなく。日本だっていまだに街宣車バカとかいるわけですし。戦後の事後処理はそう簡単には終わんないし、ずっと後を引くのだなと…。
キャラクターの描き込みも興味深かった。腕組みしてやりきった感を出しながら自分の映るテレビをみているバウアーと、自身の功績を世に残したいゆえに録音した肉声インタビューで尻尾を捕まれてしまうアイヒマン。善と悪、追うものと追われるもの、元ナチスとナチハンター、ふたりに共通していた自惚れと攻撃性にフォーカスして、二者は鏡合わせの関係なのだとしてしまうのは、この題材にしてなかなか攻めた人物の解釈をしていると思う。