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オリエント急行殺人事件のArataのレビュー・感想・評価

オリエント急行殺人事件(2017年製作の映画)
3.7
最近、とある方とケネス・ブラナー氏のポワロの話題になり、私がいずれの作品も未鑑賞であると伝えると、是非とも観てほしいと推薦されたので、順番で鑑賞。

サブスクにて、字幕版と吹き替え版とがあったので、2日間かけて立て続けに鑑賞。
吹き替え版のポワロの草刈正雄さんが、品のある話しぶりの中に、そこはかとなく漂う気難しい雰囲気がぴったりと合っていて、とても良かった。

字幕と吹き替えでは、当然ながらセリフが少し変わるのだが、後述する今作鑑賞に際しての様々な基礎知識を要する必要がない様な工夫のある、宗教や西洋絵画などに疎い日本人にも伝わりやすい内容で、字幕版では気付けなかった、登場人物の心理状態や、ポワロの推理の根拠などが理解できた。
もちろん、字幕、吹き替えの順番での鑑賞なので、吹き替え版鑑賞が2度目に当たると言うのもあるが、それ以上の吹き替え版のセリフによる、『さりげない説明』がある様に思えた。



過去に何度も映像化されており、大まかなあらすじや、登場人物、犯人、動機などは周知しているものの、演者や製作者が変わると、また新たな作品として生まれ変わる様が面白い。


オープニングの、玉子や糞を踏んでしまうシーン、度々指摘するネクタイなどで、ポワロの性格などを映像で説明している描写などは、とても素晴らしい。
ポワロのネクタイのディンプルかっこいい。


序盤の、嘆きの壁での事件解決は、現在のイスラエルの問題は、宗教の問題では無く、それにより利益を得ようとする英国が悪いのだと言う、かなり直接的なメッセージの様に思えた。
ポワロの様なスッキリとした解決をしてくれる存在が、現実の世界に出てきてくれる事を願う。

ところで、そのシーンで、『ラビと神父とイマームのジョーク』を言いかけて、『ベルギー人なので』と許しを請い、話を途中でやめるのだが、あのジョークについてお分かりになる方がいらっしゃったら、是非教えて頂きたい。
宗教の基礎知識を、高めていく必要性を感じた。


黒人やラテン系の人物が登場し、逆説的に差別を否定する演出がなされているところも、違和感なく良かった。
人種で差別をしてはいけない。


ラスト、トンネル内で謎解きを始めるのだが、全員が横一線に並んだその様子は、さながら『最後の晩餐』。
これも、絵画の知識、キリスト教の知識を持ち合わせていれば、また違った見方が出来るのかも知れない。
その辺りに関して、もう少し理解できる様になった時にでも、再鑑賞して観たいと思う。


また、シェイクスピア作品と深く関わるケネス・ブラナーさんなので、その辺りも何かしらが加えられてあるのかも知れないが、お恥ずかしながら古典芸能に疎い為気付けず。
(何も無かったのかも知れないが…。)
なんと無くだが、自分の無知を突きつけられた感じがした。


そう言った意味では、三谷幸喜さんが脚本を務め、野村萬斎さんがポワロ(勝呂:すぐろ)を演じたフジテレビ版は、日本人にとって、とても入り易かったのだなと改めて実感。
アームストロング大佐が、剛力(ごうりき)大佐となっていたり、名前の変更もお見事と思えるセンスで、とても良かった記憶。


西洋絵画、海外の宗教、差別、古典芸能などなどの、幾つものいわゆる「教養」を要する作品。


知識を備えて再鑑賞したい。
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