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ミニオンズ フィーバーのaのネタバレレビュー・内容・結末

ミニオンズ フィーバー(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

・本作冒頭、幼きグルーがアイスクリームショップに行き、列に並ばずに客に向かって「チーズ光線」を噴射しているシーンは、『怪盗グルーの月泥棒』(2010)の冒頭、コーヒーショップの客を銃で凍らせたシーンと対応していて、そこにはグルーが月日を重ねて光線銃の素材をチーズから氷へと改良していったという意味が込められているらしい。もうこのオマージュへの気配りだけで既に面白い。

・最後、ワイルド・ナックルズがグルーに発する「月に向かって撃て」というセリフは、これもグルー自身が大人になって月を盗むということにも対応しているのだそう。こういうオマージュもいちいち良質なものを仕込んでいてとても良い。

・本作でビデオメッセージを通じて映し出されるホログラムは『スターウォーズ』シリーズのオマージュでもある。

(・その他本作は無数のオマージュ「風」シーンが存在します。以下、それを踏まえながら感想を執筆していきます!)

・本作は全体を通して1970年代に関するオマージュ的な描写が絶えないのだが、特に冒頭では、スパイ映画の数々にオマージュを捧げている印象があり、これは個人的には親しみがあってそれだけで面白かった。まず冒頭、オープニングのシークエンスがミニオンズがゆっくりと踊っているシルエットとともに、本作のヴィシャス6がアイコンとして象徴画のように重ね合わせられるのは、今までに『007』シリーズがしてきたオープニングをそのままなぞっている(上に、ちゃんと映画的な意味を通底させ、要約もしている)のは、もう既に冒頭からイルミネーションスタジオの引き出しの多さを感じさせてしまうのだ。

・また、本作のテープに従ってミッションをこなしていくという構造はそのまま『ミッション・インポッシブル』シリーズをなぞっているし、もちろんテープが残り秒数で焼却されるのもそのオマージュなのだが、レコードを反対に回したり、秘密結社のうまいこと本シリーズのギミック性というのがスパイ映画のそれと調和している印象があり、これは個人的に嬉しかった。本当に良かったなあ…。

・本作の映像的(非言語的)なイメージの関連性というのは、この2作くらいで更に磨きがかかっていてこの点も素晴らしい。特に本作は、CGの発達によって素材感自体にすらそのようなオマージュを掛けている印象が終始あるのだ。あくまで一例だが、面接でグルーの次にやってくるキャラの生地感が、当時のTVドラマにありがちな悪役の安っぽいコスチュームのそれっぽかったり、中盤に出てくる『マッド・マックス』風のメタル的な世界観を基調としたキャラ達も、『ストリート・ファイター』的なゲームオタク感の高いハチマキを巻きながらトレーニングをしているというのも、本国のそれっぽくて、端的に言ってほぼ全てがおもしろシーンとして成立しているのは、ちょっと異質なクオリティがある。

・さらに、終盤の悪党が盗んだところから本作のヴィラン達が変幻自在に凶暴なアニマルと化す時のカット割や箱庭的なシーンは、基本的には『キング・コング』(1933)での決戦シーンをベースにしているっぽい(「っぽい」というのに留めているインスピレーションが無数に存在しているのも恐ろしい)し、魔法の炎の緑の光たちも、明らかにディズニーのヴィラン達を意識している。

・また、彼らに追い込まれたグルーがドラゴンに追い込まれて時計台の上でたじろのは『ピーターパン』と『眠れる森の美女』でのマレフィセントを足し合わせたオマージュなのだが、このシーンからも分かるとおり、そのようなシーンが単なるオマージュに終始するのではなく、ちゃんとそれらの持つ映像的な卓越性(両作において特に印象的なシーンの2つを間髪入れずに重ね合わせることで、「ピーク」を意図的に持ってきている)を切り抜いたままやんわりと利用してくるのは、まさに最先端の映画表現技法(ポスト・ポスト・モダン表現)で、それらをCGで徹底的に利用しているというのにも脱帽。

・回を重ねるにつれてミニオンズの量が多くなっているのも、サービス精神が旺盛でとても嬉しい。確か2作目あたりまでは、ミニオン達を特定できるくらいの量だったのが、本作ではそれすら感じさせない応酬が終始続いており、CGIの発達も含め変わり映えしないように見えて順当な進化を反映させることにも成功している。

・一応一人の新キャラが犠牲にはなってしまうものの、本作において物語性というのはほぼ無いに近く、この振り切り具合も『ミニオンズ』(2015)を彷彿とさせる勢いでとても良かった。特に直近2作は人間ドラマをつけようとして若干のスピード減速が見られていた為この点少し心配だったのだが、これを見る限り本シリーズはまだまだ期待できる点が多い。

・それと引き換えに、もはやミニオンズが出ると問答無用で面白いという映画としてのお手本のようなシリーズへと昇華している点は超素晴らしい!いつもこのくらいのミニオンズたちが出てくれれば、視聴者としても絶対に楽しめると思う。常これに限らず、このように差し込まれる形で展開されるようなマスコット的な面白さというのは、映画に限らずそれを体験している人を無条件に面白さの客体としてしまうという特別な引力があるので、そういうことは(都市設計や政治においてすらも)どんどんしていけば良いと思う。

・総評。本シリーズ、および他の監督が描いた作品からなる、映画的に「面白い!」という感想の持ちうるシーンを、90分かけて高度なCGにより、しかもミニオンズの主演によりそのまま詰め込みまくったということで、それは面白くない訳がないのです。そこに振り切れることを良しとする社風はイルミネーションには前々より在ったものと察されるのですが、本作ではTVシリーズに限らず映画におけるオマージュも多用しており、毎作で抱く印象が飛び抜けて増幅されていたように思えます。そして何より、本シリーズの根幹をなすオマージュ的なコメディシーンは、前作あたりからオマージュの領域が非言語的な領域にまで突入しており(スピルバーグやワンのレベルにまで到達しているでしょう)、それらの切り取り方も正直今まで観てきたどの作品よりも上手で、怠さも一切なく、これに関しては一体何を食べたらこのようなクリエイティビティを発揮できるのか疑いたくなるレベルです。傑作!
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