デニロ

夜の流れのデニロのネタバレレビュー・内容・結末

夜の流れ(1960年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

志村喬が情け無用の特権的パトロンを演じる。築地の料亭を山田五十鈴に任せているのだ。ふたりの関係は詳しく描かれてはいないが、志村喬は屡々山田五十鈴を誘うのだが、その都度はぐらかされるばかりで志村喬にしてみれば癇に障るばかりだ。

実は、雇われ女将山田五十鈴は店の板前三橋達也と男女の関係であり、時折、待合の離れで睦合う。彼女には結婚適齢期の娘司葉子がいて、娘も三橋達也と食事デートなどして、三橋達也の神経はどーなっているんだと思わぬでもない。

そんな母娘が同じ男を好きになるとどうなるのか、という実験的映画作品なのかと構えて観る。

一方、三益愛子が女将をしている置屋の芸妓にもそれぞれドラマがあって、観ているこちらは目まぐるしくせわしない。あたしゃ下宿屋の女将だよ、と自嘲する三益愛子の苦労が偲ばれるのです。草笛光子、水谷良重、市原悦子。惚れっぽいというのか何というのか市原悦子は騙されて云々と言っているけれど、芸妓と男と女のラブゲームを楽しもうとしている男に身もこころも委ねてしまうというのはルール違反に他ならぬ。周りの芸妓衆ですら冷ややかに彼女の行状を見つめるばかり。揚げ句の果てに芸妓仲間のペット犬を道連れにガス自殺未遂。水谷良重に至っては線が数本飛んでいるのではあるまいかという態で無防備に酒を飲み続け遊びまくる。彼女は遊ばなくちゃやってられないわよなどと言っているけれど、仕事と夜遊びが顛倒しているんじゃないかと思うほど。知り合った低能で未熟な大学生に酔っぱらって意識不明状態で準強制性交されてしまう。悔しいって泣き崩れるのだが、次、彼らの就職内祝でお座敷に呼ばれると、乾杯の代わりにビールをぶっかけ、ごめんあそばせ。そんなんで済ませていいのかと、今のわたしは思うのだが。そして草笛光子です。こちらは山田五十鈴の物語と同様の比重がかけられています。

草笛光子は、出入りの呉服店の外商員宝田明と恋仲になっていて、結婚し店を出す算段を整える。が、彼女には自分を捨てて若い女に走った前夫北村和夫がおり、彼との離婚が成立していない。その彼、若い女と手切れて草笛光子に無心し復縁を迫る。宝田明が独立し、草笛光子が采配をする店に出向き三者会談。お金でしょ、言うとおりに払うから離婚届に印を押して届けましょう。すべてが終わり駅のホームで電車待ちをしている三人。宝田明が新聞を買いに席を外すとふたりきりの異様な構図が浮かび上がる。そこに電車が流れ込んでくる。北村和夫が一緒に死んでくれ。草笛光子の叫びに気付いた宝田明が助けようとするが弾き飛ばされたその瞬間、北村和夫は草笛光子を抱きかかえホームに飛び込む。

北村和夫の何とも言えぬいやな感じはとてもこの世のものであるとは思えなかった。対して冒頭に記した志村喬の縁切りは冷酷な生殺し。自分の店で三橋達也との別れ話に逆上して刃傷沙汰を引き起こした山田五十鈴をにべもなく追い出し、新しい女将に越路吹雪を当て引継ぎをさせるのです。これも山田五十鈴がついに靡かなかった故であろうと。

ラスト。これからはわたしがお母さんを支えるわ、と芸妓になる意を固めた司葉子のお披露目の朝、娘の門出を見送った後、自らも新しい人生を求めて三橋達也のいる神戸に行く、と書き残して旅立つのです。三橋達也も迷惑な話だと思うけれど、優柔不断な男に見えるので経験豊富な山田五十鈴に言いくるめられるのが眼に見えるようだ。

こうして長い物語は終わり、母娘は二度と会わなくなるのです。

1960年製作。脚本井手俊郎、松山善三。監督成瀬巳喜男、川島雄三。山田五十鈴43歳。

神保町シアター 没後10年 女優・山田五十鈴 にて
デニロ

デニロ