ぴよ2522

凪待ちのぴよ2522のレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
3.8
これは後からじわじわと言葉や感情が溢れてくるやつ。
ミステリーではないです。
殺される人がいるけどそれがトリガーになるだけ。

白石和彌監督作品は人間が堕落していくエグさが怖くてずっと観れなかったけど怖さ優しさどっちもあるんだな。
恐れていたほど暴力的な表現にエグさは感じなくて、むしろ悪意なき人達の無意識の区別の方がじわじわきた。
何かあった時に初めて浮き彫りになる身内と余所者の線引き。
シザーハンズを観てこの世で1番怖いのは地元コミュニティかもと感じたのを思い出したわ。

同僚に連れられて行った飲み屋でギャンブルに誘われて一度断った後の郁男の目がちょっとすごかった。
香取慎吾ってこんな顔出来るんだ。
亜弓が殺されてからの郁男のギャンブルはそれまでと違って自傷行為だったんじゃないかな。
口汚く罵られ、責められたら少しは楽になれるかもしれないのに周りは優しい。
いっそ根っこまで腐れれば楽なのに腐りきれないから余計に苦しい。

凪待ちは郁男の物語だけどいろんな人の凪を待つ話でもありそう。
亜弓の故郷から静かに出て行こうとした郁男が昔のギャンブル仲間のニュースを見た後突然行き先を変えた。
郁男はなべさんの憑き物が落ちたようなスッキリした顔を見て触発されたように見えた。
あの時のなべさんにもある種の凪が訪れてた気がする。
震災以降、家族を助けられなかった(または一緒に逝けなかった)勝美さんは表面上は凪いでいる日常でも内面は後悔で荒れ狂っていたかもしれない。
でも誰かの為に生きるという凪を手にした。
そして犯人もある意味凪を得られたのかも。

エンドロール、石巻の海の底。
まだ凪いでない。
今も凪待ち。
ぴよ2522

ぴよ2522