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アナベル 死霊博物館のaのネタバレレビュー・内容・結末

アナベル 死霊博物館(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

・本作は死霊館シリーズの7作目であると同時に、1作目『死霊館』(2013)から出演してきたアナベル人形のスピンオフ作品としては3作目となる。本作の監督であるゲイリー・ドーベルマンは、脚本家としてホラー映画に携わることが多く、資料館シリーズでは2作目以降、本作総合プロデューサーのジェームズ・ワンと共に全ての原案や脚本に参加したり、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)シリーズの脚本も担当していたり等、順調なキャリアを歩んでいる(順調なキャリアを歩んでいるとWikipediaに書いてあった)。本作は、ドーベルマンにとっての初監督作品だった。


・余談だが、ハリウッドにおいて脚本家という役職は、結構コネ周りで人事が動いてしまうケースが多い。というのも、ハリウッドで仕事を継続的に得ていくためにはそのためのギャラの交渉術が必要不可欠で、それを効率的に行うためには必ず組合に入らなければならない(全米俳優組合や全米脚本家組合等)のだが、その組織に入るためにも、過去に自身の制作したものがヒットしたという前例がなければならない。なので、フィルモグラフィーの全くない監督は、まずはそれらの組合に入るために、YouTube等の制作で一発当てるか、もしくはコネを使って仕事を得る必要があるのだ。


・この制度は、一見すると著名な監督を認めるためには合理的なように思えるのだが、このシステムによって、脚本家のキャリアにおいては現在進行形で、(主にシリーズ制作で)全く無名な監督が突然やってきて、話のプロットをいきなり決めてしまい、それによりシリーズの構成や制作現場が振り回され、興行収入や後プロットに遺恨を残すという、悪しき風習を生み出しつつある。スター・ウォーズシリーズや007シリーズ等、直近でも話の大枠が成立していない状態の映画シリーズは大抵、監督や配給会社のコネによる人選だというのが、なんとも憎い。映画制作が職人家業であった時代は、予算の大規模化と配給会社の権威化によって、着々と終了しつつあるのだ。


・本作も、TV畑の局スタッフが、(元から仲の良かった)ジェームズ・ワンの手伝いをするようになり、遂には監督もさせてもらえた、といったような格好だ。確かにこれは企業の社員が描くキャリアとしては順当(だし、現在の映画界ではこのような持ち回り的な仕事が望まれている)なのだが、果たしてこのような持ち回りのキャリアによって名監督が生まれてきたことはあっただろうか。第一、脚本家と監督は似たようで全く違った職務を行うが、後述する通り本作は、まさに監督たちが最も気を配っているような画的センスと編集において、近年稀に見る酷さがあった。


・個人的には、ただつまらない作品を単発的に制作した監督や脚本家は、彼らのクリエイションそのものに対する評価ができるので全く構わないのだが、そうではなく、配給会社の大規模なシステムに乗っかり、持ち回り的に仕事を始めるエリート官僚みたいなのがハリウッドには本当に一定数いて、彼らがいきなり超大予算の映画の制作に関与してきたりするのは、本当に勘弁してもらいたいと強く思う。


・本作は、死霊館シリーズのスピンオフの中では初めてウォーレン夫妻が出てくるシリーズであると同時に、エンドクレジットの通り、映画の公開2ヶ月前に亡くなったロレイン・ウォーレンに捧げられた物語である。


・上に関連して、最後にパトリック・ウィルソン(本人自身もミュージシャンであるらしい!)が陽気に歌を歌ってくれるシーンと、その後の追悼文は、本作の話に全く関係ないにも関わらず、ジーンときてしまった。


・本作の舞台はウォーレン夫妻が実際に経営している「ウォーレンオカルトミュージアム」をモチーフにしている。この建物は今でも入ることができ、入場料の数ドルを払えば、実在のウォーレン夫妻がこれまで悪魔祓いをすることと引き換えに依頼主からもらってきた(怨念入りの)コレクションの数々が一挙に展示されている部屋を見せてもらうことができる。そこにはもちろん、実在のアナベル人形も、ガラスのなかで鍵がかけられた状態で展示されている。


・本作で目玉のメタファーとして登場するコインは、渡し守と言って、特定の金貨を渡す代わりに自身の魂をステュクス川を渡って冥界へ運んでもらえると言われる、ギリシャ神話のステュクス神に基づいているらしい。他にも、ボブを襲った狼男は、フランスの神話的な民謡における、夜霧の中から現れる巨大な狼男と、彼による鶏の屠殺のエピソードが元になっている。また、本作のミュージアムに展示されている甲冑のデザインは、鬼(英語版サイトには鬼の説明として、「日本神話におけるデーモン・ソルジャー」と書いてあった)に基づいていたり等、そのような悪魔的な神話に対する配慮は、本作で随所に見られる。


・個人的な感想では、ワンが1作目でミュージアムの目立つ位置に甲冑をおいていた理由って、単に目立って面白いから以外のものはないのでは…?とは思った(ワンが手がけた2作品は、どちらもウォーレン夫妻の体験談には基づいているが、しかし神話や悪魔のメタファーをわざわざ入れると言ったことはしてこなかった)。


・死霊館シリーズは、今までR指定されないことを前提に制作されてきたシリーズで、それにより異常な血飛沫や汚い言葉遣い等を抑えてきたシリーズだったのだが、その努力に関わらず、全作品がことごとくR指定となっていた。この現状を踏まえて、本作では初めからR指定となることを見越した作品作りがなされており、実際本作では一度だけFワードが発されたり、またしっかりとナイフで刺される(ように見える)シーンも追加された。


(・ここから先は感想となります!)


・確かに話の展開としては面白かった。ワンが制作した死霊館本編シリーズに次ぐようなテンポ感自体はあり、例えば『アナベル 死霊館の人形』(2014)や『死霊館のシスター』(2017)ではそれすら怪しかったことも考えれば、アナベルシリーズの3作目でワクワクするものを提供できているのは良い点だと思う。原題は Annabelle Comes Homeなのだが、この題はめちゃくちゃ良い。


・キャラクターとしてのボブは、彼が面白すぎるがためにインパクトを十分に持っており、素晴らしかった。挙動不審な男性の言い回しや特徴を一挙に捉えていて、残念なイケメンとしてこれほどまでに精緻な描写は未だ観たことがなかった。唯一の問題点は、本作の娘3人衆に比べてボブ一人の方が圧倒的にキャラクターデザインがはっきりとしていて、おまけに映画的な面白さに溢れているので、物語の主題がボブに引っ張られがちな印象がどうしてもあったことだ。例えば狼男にボブが襲われ、鶏の小屋にボブが引きこもるシーンは、カメラワークの下手さも相まってボブが滑稽に見えすぎてしまい、それなりのCGを駆使しているはずなのに全く恐るに足る要素がなくなってしまった。でもそれくらいボブはあまりに滑稽さを追求していてそこに振り切ったデザインが非常に良かったし、ひょっとしたらボブが主人公でも全然面白い作品ができてしまうのではないか。


・もっとも、とにかく画作りが終始酷く(明らかに普通未満なので、そうとしか形容できない)、かつ照明やカメラの置き方がどうしても気になってしまい、それが結果的に本作の怖さを半減させている印象が拭えない。


・何より娘3人衆のきている服!もう少しなんとかならなかったのだろうか。複数色の柄物やウサギの頭が何個もあるだけのセーターって、そんなものを着せるくらいなら全身黒で統一した方がはるかにマシでは...とずっと思ってしまった。せめて色合わせはするとか(映画ともなレザ全体の構成を見た上で配色を決定することすら普通に行われることだが、この衣装では一般のコーディネートスタイルよりよほど酷い)、少しも配色について考えを及ばせてないのがまず着ている服から察されてしまう。


・ウォーレン夫妻の自宅というのも、あそこまでモノが溢れていればさまざまな光が反射して、部屋のガラクタ感がそれだけでも十分に楽しめそうなシーンが本作中には非常にたくさんあったのに、ただモノの配置が雑然としているだけで、それ以上の特段の面白みがないのも、どうなのだろうか。カメラもほとんど動かないので、オカルトに溢れた部屋というより、「普通の部屋」をずっと見ているような印象だった。


・照明については、極め付けに部屋にある4色(虹色)の光が、本当にほぼそのまま光っているだけというのは大変に気になったし、これではまるでゲーミングPCのようにずっと虹色に発光していたらそれだけで面白い、という視覚的に初歩的な喜び以上のモノが得られない。そもそも、ホラー映画において虹色に光らせるということは後続の視覚的効果を明らかに薄めるので、どう考えてもよくないはずなのだが…。


・視覚的な効果の薄さでいうと、最序盤にボブの店でトマト缶をこぼした客の姿がまるで血みどろに見えている、みたいな小ネタギャグを挟んでいるせいで。後に出てくる血まみれになるシーンではどう見ても赤色の何かをこぼしたことによる特殊効果にしか見えなくなってしまう、ということも、本作の明らかな欠点だろう。該当シーンをカットするだけで簡単に改善できるはずなので、監督であれば、そのような画の連鎖反応には最も敏感であってほしい。


・一方で、数十秒先の展開がテレビで映し出されていたり、公爵のような男性の目をコインに見立てて、それがずっとつけてきたり、局所的には面白みがありつつしっかり怖がらせるアイデアもあったのは良かった。前作『死霊館のシスター』があまりのシスター所業の一点ばりだったので、この位柔軟にわたしたちを怖がらせてくれるのは、いつもの死霊館っぽくて嬉しい。


・総評。キャラクターの衣装と照明の統一感だけでもなんとかしてほしいし、それを初監督作品らしいと言えば非常に角が立ってしまいますが、でもアイデアは面白味のある箇所がそこそこあり、特にボブという、それだけでスピンオフを制作しても良いレベルの逸材キャラクターがまたもや登場したので、エンタメとして結果的に楽しく見ることができました。次作はついに、ワン監督の死霊館正編3作目なので、これが非常に楽しみです。
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