泣いたり踊ったり

ラストナイト・イン・ソーホーの泣いたり踊ったりのレビュー・感想・評価

3.6
【ネタバレ】
最近の商業映画には織り込まなきゃいけないテーマがいくつかあるらしい。フェミニズム、ダイバーシティ、古い時代の価値観からの脱却。
エドガーライト監督はイギリス人ならではのオタク的感性で、サラッと見られる楽しい映画が得意な印象だが、彼とて昨今の商業映画の流れには逆らえない、というのが最初の感想だった。

60年代のロンドンで「歌手」を夢見たサンディ。しかし有りつけた仕事は場末のキャバレーの踊り子。男と寝てパトロンを見付けなきゃ歌う事さえ叶わない。夢を諦めテキトーに結婚することも出来ず、ロンドンから逃げ出す勇気もなく、イヤイヤ客を取る毎日。
実際こんな風に身を落として這い上がれなかった女の子はショービズやハリウッドの世界にゴマンと居たんだろうし、そこに漬け込む男達もさして悪気は無かったんだろう、そういう時代だったから。

2020年代から見た60年代の描写としては妥当で新鮮だった。

「古き良き時代なんてものは無い、その時代それぞれに善し悪しがある。過去を美化して傾倒し、でっち上げた幻想にすがるな、今を生きろ」というメッセージは実際に60~70年代の文化が好きな私には刺さった。
が、どうにもサンディの犯行動機が理不尽・サイコパスすぎて鑑賞後は置いてけぼりになった。

いやさあ、気合い入れてパトロン探してのし上がるか、スッパリ諦めて田舎に帰るかの二択だろ。脳ミソ付いてるんだからどこかで折り合い付けられるでしょ。何を中途半端に身体を売り続けて、その上で連続殺人まで犯して、それでもなお悲劇のヒロインぶって生霊まで飛ばして馬鹿じゃないの?捕まらないのもご都合主義すぎる。

こういう馬鹿な女を現実世界で見過ぎたせいもあるけど、一切感情移入出来ないからメインテーマである当時の女性の痛みが伝わりづらいし、ジョーライト監督はオンナって生き物をなんか舐めてるよ。若さゆえの愚かさで歌手を夢見る鼻持ちならない女はキライで、エロイーズみたいな純朴サブカル芋っぽ女が好きなんでしょ、充分伝わったよ。

オタクな監督にありがちだけど人間がペラい、流れる血に重さがない。サンディもエロイーズもあくまで「性的対象としてのオンナ」的な、美少女フィギュア並べて映画撮ってる感じが否めなくて、「人間としての女」が描けてない、庵野や初期タランティーノみたいな感じ。なんなら男もそう。それがテーマと相反してる。

それなら「ショーン・オブ・ザ・デッド」的に、メッセージ性ゼロで楽しませてくれたら良かったのに。十分怖かったし。

重厚感だけが映画じゃないじゃん、ファストフード的な映画も人生には必要じゃん。この監督の映画は好きだからサンディみたいに背伸びした夢を見て身を滅ぼさないことを願うよ。